人気レストランの徹底的なこだわりとは【アランチーノ・イタリアンレストラン】
ハワイにアルデンテパスタを広めた本格イタリアンレストラン「アランチーノ」。オアフ島に3店舗を構える人気店のこだわりを稲村社長にお聞きしました。
公開日:2015.07.14
更新日:2017.06.14
絶妙なアルデンテパスタをハワイで食べられることで大人気の本格イタリアンレストラン「アランチーノ・イタリアンレストラン」。現在オアフ島に3店舗を展開し、常に進化を遂げているアランチーノ・レストラン・グループのオーナー、稲村一郎氏にインタビューしました。
ーーーいつもおいしいお料理を楽しませていただき、ありがとうございます。稲村さんがハワイへ移住されたのはいつ頃だったんでしょうか。そのきっかけも教えて頂けますか?
稲村一郎氏(以下、稲村):日本からハワイへ移ってきたのは1987年です。最初は子どもの教育のことを考えて家族での移住を計画しました。この素晴らしい場所でのびのび育ってほしい...と。で、ハワイへ来てからビジネスについて模索し始めました。自分なりに「日本にあってハワイにないもの」が受けるだろうと思ったんです。最初に浮かんだのは、赤坂にあったような超高級な焼き鳥屋さんをハワイでやったらどうかという案。鶏肉の品質にとことんこだわって、漆塗りの食器を使って...。でも、ローカルの人に意見を聞くと「ハワイでは、どんなに高級でも焼き鳥はバーベキューなんだよ。$100もする焼き鳥(バーベキュー)は、誰も食べたがらないだろうね」とバッサリ。なるほど、そうか...と落ち込みましたよ(苦笑)。
ーーー確かに、ビーチや公園、裏庭でバーベキューの文化ですもんね。
稲村:そうなんですよね。そこで次に思いついたのが日本の生ビールでした。当時のハワイには、日本のような生ビールがなくて。アメリカやヨーロッパにもドラフトビールはあるんですが、熱処理したビールをビンに入れる代わりに樽に入れてるだけなんですよね。ならば、と熱処理なしの日本の生ビールを提供するビアバーを始めたんです。ビーチウォークの、今あるアランチーノの隣の場所でした。知人を通じてキリンビールの生ビールを輸入させてもらってね。泡の感じや喉越しがやっぱり違う、これこそ生だよな、とハワイ在住の日本人中心に好評でしたよ。でも、仕事に没頭しているうちに、娘と全然会えない状況になってしまったんです。飲み屋のおやじ(笑)と小学生では、生活時間帯が全く違いますからね。会話もなくなり精神的にも辛くなってしまって。それでテナントにレストランスペースを貸し、自分はビアバーの経営をやめることを決意しました。
<1998年アランチーノ、オープニングメンバー>
ーーーすごい決断ですね。でもその時の稲村さんには、お子さんとの時間の方が優先順位が高かったということですよね。
稲村:ええ。おかげで娘とのコミュニケーションもうまくいくようになったんですが、そうこうしているうちにテナントのひとつがレストランをたたむということになって、だったらもう一度何か始めようかと。娘もだいぶ大きくなっていて、タイミング的にもいい感じでしたしね。もう一度「日本にあってハワイにないもの」を探して、思い浮かんだのがアルデンテパスタだったんです。茹で過ぎない、絶妙な歯ごたえのパスタがハワイにはない。だったら作ってしまえ!と、1998年に本格的なイタリアンレストランを始めました。それがアランチーノの第一号店です。
<野菜売りおばさんのパスタ>
ーーーハワイへ移住されて実に10年以上が経ってから、アランチーノの歴史がスタートしたわけですね。
稲村:試行錯誤を経て辿り着いたのが、かえって良かったのかもしれません。それまでなかったアルデンテは、日本人にはとくに好評でしたよ。うれしかったです。ただね、アメリカ人には人気がなくて「このパスタ、生(uncooked)じゃない?」みたいなことを言われたこともありました(苦笑)。でも、徐々にわかってくれる人が増え、さらに日本人からの大きな人気に後押しされて、2003年ワイキキ・ビーチ・マリオット・リゾート&スパに「アランチーノ・ディ・マーレ」を、2013年にはザ・カハラ・ホテル&リゾート内に「アランチーノ・アット・ザ・カハラ」をオープンするまでになりました。ありがたいことです。
<マリオットホテル店>
現在、うちのマーケットは3つ。日本人旅行者、日本人以外の旅行者(アメリカ本土やヨーロッパから)、そしてローカルです。以前は日本人旅行者をメインにしてきたけれど、もっと多くの人々に楽しんでいただきたい、もっと多くの方に知ってもらいたいという方向に変化してきました。それもあって、地元のイベントに参加したりボランティア活動を積極的に行ったり、学校や病院など公共団体への寄付活動も行っています。地域貢献をしながら多くの人たちと触れ合ううちに、自然に地元のみなさんに評価してもらえるようになってきました。ローカルの料理品評会でも認めてもらうようになり、うちのシェフが活躍できる機会もいろいろ増えてきたんですよね。
<契約農園にて>
ーーー地道にゆっくり、正しいことを行い続けてきた結果、周囲の皆さんから様々な形で評価されてきたということでしょうか。
稲村:そう思っています。数年前からは、食の安全性にもとことんこだわっていますよ。よく、自分が食べると思って素材選びを...などというけれど、逆に私たちは「お客様に食べてもらって大丈夫か?」という目線で品質管理をしています。他人様に食べてもらうものだからこそ、気を遣わないと。私やシェフ(上の写真は総料理長の濱本シェフです)が実際に契約している畑へ行って、自分の目でクオリティを確かめてもいます。契約している農園、畑はオアフ島とマウイ島に3カ所。きっちりお話して、お互い納得いく野菜を届けてもらうようにしています。BBB消費者保護団体などから表彰していただけたのは、そんな努力が認められたからだと自負しています。
<マッシュルーム・ピッツァ>
ーーー地産地消、スローフード推奨といった動きは、近年ハワイでとくにさかんですよね。ファーマーズ・マーケットやオーガニック・スーパーなどの人気もすごいですし。
稲村:野菜は鮮度が命だから、新鮮な状態で早く食べるのがいいにきまってます。うちでは魚介やお肉も「カウアイのシュリンプ」「ハワイ島の牛肉」と産地がしっかりわかるものを使用していますよ。逆に良いものは、遠くイタリアからでも時間やコストがかかっても取り寄せる。たとえば小麦やチーズはアメリカで安いものが簡単に手に入るけれど、イタリアからいい素材を仕入れています。値段(品質)を落とそうと思えばいくらでもできるんです。もし素材を安いものに変えても、日本人のお客様はなにも言わないでしょう。でも、言わずにすーっと離れていく。それが怖いんですよね。利益やコストだけを考えるのではなく、お客様に喜んでもらえることを考えるのが一番だと思っています。もちろんコストは上がるけれど、多くのお客様がきて楽しんでくれればそれでいいじゃないですか。もちろん、ほかと比べて「ピザがどうしてこんなに高いんだ」と言われることもあります(苦笑)。それは仕方ないけれど、うちのピザは端っこまで美味しいですよ。それがこだわりなんです。
<カハラホテル店>
ーーーハワイ全体のレストラン事情もだんだん良くなってきていると言われています。アランチーノはそのさきがけ的存在ですよね。
稲村:ありがとうございます。努力している分、認めてもらえるのはやっぱりうれしいです。でも価値観はいろいろだから、違う考え方をされるお客様も大切にしたいと考えています。たとえばお客様に「アルデンテが気に入らない、uncookedだ!」と言われたら、柔らかく茹で直してお出しする。「本場イタリアではこれがアルデンテというもので...」なんてレクチャーしたりしません。せっかく縁あってアランチーノへ来てくださったのだから、みなさんに喜んでもらいたい。間違いなんてないんです。ただ、うちはこういうスタイルでやってるというだけ。そういうことなんですよね。
<モロカイ島の甘海老とハワイ島のアワビのマリアージュ>
新しいメニューも随時考えていますよ。その際は「試食委員会」を開いて試食します。スタッフはもちろん、外部ゲストを呼ぶこともありますね。何度も試食を繰り返し、みんながOKと思ったものがやっと商品化されます。しかしここからが問題。全員が認めた味を、シェフたちが同じように作り続けられるかも大事なんですよ。誰がどうやって作っているか、最初のレシピと間違いがないかを確認し「保つ」ことを心がけています。新しいことを生み出すのはもちろんですが、維持するのがたいへん。いい加減なものは、うちのレストランでは出せませんから。お客様に満足してもらうため、妥協はしません。
ーーー徹底的にお客様の立場にたって、品質とサービスを保つ。その真摯な姿勢が今のアランチーノ・グループの人気につながっているんですね。
稲村:まだ道半ばではありますが、これからも会社の利益や効率だけにとらわれず、お客様、そして社会全体や公共にとっての利益を考えて実行していきます。それによって利益の一部が最後には自分たちに戻ってくると信じていますから。実際、それがいろいろな形で評価していただけるようになり、本当にありがたいですね。そもそも、味もサービスも、これで100点満点なんてことはありません。これからも、地道に頑張っていきます。
- この記事をあとでまた
みたい場合は、
マイページにクリップ!