ウクレレとは不思議な楽器である。大昔、ヨーロッパからハワイへと渡り、独自の音楽を紡いできた小さな楽器は、現代のエネルギッシュな若き伝道師たちの演奏によって、多くの人の心を癒し、魅了しつつある。その手法はさまざまでも、彼らの熱意はそのままウクレレの魅力として、広く世界で受け入れられ始めたようだ。
そんな若き伝道師のひとり、ハーブ・オータ・ジュニアは、特殊な環境で育ったプレイヤー。ハーブ・オータという偉大なる父に手ほどきを受け、幼いころから英才教育でウクレレを学んできた彼は、まさにサラブレッドと呼ぶにふさわしい存在。だが、父と同じ名前を持つことをプレッシャーに思わず、自分のスタイルを確立するには、相当な努力が必要だったに違いない。現在は、ヒルトン・ハワイアン・ビレッジの「トロピックス」や、ココ・マリーナの「バビーズ」にて定期的にライブを行っているが、ココ・マリーナでの演奏は、出来るだけたくさんの人にウクレレを楽しんでもらおうと、ボランティアで行っているのだという。
「そう、僕の夢は、今まで演奏したことのない場所へ行って、ウクレレを聴いたことのない人に、このすばらしい音楽を聴かせてあげること。ベスト・ウクレレ・プレーヤーになることがゴールじゃないんだよ。だって僕のまわりには、神さまとか神の子みたいな人がいるからね(笑)」。
ジュニアが神と呼ぶのは、父ハーブ・オータの恩師であり、伝説的ウクレレ・プレーヤーのエディ・カマエ、そして神の子と表現したのは、言うまでもなく父その人だ。その尊敬する父と競演した待望のCDが6月にリリース。その少し前に発売されたダニエル・ホーとのデュオ・アルバム第2弾「ステップ2」も好評だ。CDには、日本でもおなじみのスタンダードから「サムウエア・オーバー・ザ・レインボー」などの人気曲、ダニエルとのオリジナル曲が収められている。
「ふたりだと、なぜかレコーディングがスムーズに進むんだ。彼はギターの天才で、スタイルも違うけれど、きっと同じ音楽のテイストを持っているからだと思う」。そんなダニエルとは、共同でウクレレ教則本も出版済み。互いを天才と呼び合い、尊敬しあえる相手とのコラボレーションは、ジュニアの世界を広げるのに大いに貢献しているようだ。
若手ウクレレ・ミュージシャンの台頭で、にわかに活気を帯びてきたハワイアン・ミュージック界。その中にあって、自分を冷静に見つめながらも、ウクレレの魅力を世界に伝えようとするジュニアの姿は、うりふたつの父を彷彿させるが、そのアプローチは違っている。「音楽に必要なのはテクニックじゃなくて、楽しむこと。楽しまなければ、何も始まらない。だから僕はウクレレを弾き続けるんだ」。 なるほど、がんばれジュニア!
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