皆さん、トランスパックというヨットレースをご存知ですか? 1906年にスタートした、世界で最も古い海洋ヨットレースのひとつ。キング・カラカウアがハワイの経済発展とアメリカ本土との文化交流を目的として考案したと言われていて、ロサンゼルスとホノルルを結ぶ2,225海里(約4,000キロ)の距離を競い合うヨット・レースです。ニューポート・トゥ・バミューダ・レースと1年交代で奇数年に行われており、今年2009年は45回目。1963年には石原裕次郎さんの「コンテッサⅢ」も参加したことがあり、ヨットマンにとっては憧れの外洋レースです。
レースには、ディビジョン1~7までの部門があり、大きいヨットから小さいヨット(正確にはレーティングという船の構造によるスピードの違い)まで、様々なタイプのものが参加しています。一斉にスタートするのではなく、あらかじめ航行にかかる時間を予測して、スピードが遅いヨットから順にスタート。ホノルルで同じころにゴールして、一緒に表彰式ができるよう工夫されています。
このような歴史と夢のあるレースに、カリフォルニア、ハワイなどのアメリカ勢のほかオーストラリア、スペイン、メキシコ、ペルー、そして日本からも3艇のヨットを含む約50艇が参加。日本艇のなかで一番最初にハワイに到着した「ベンガル7」の祝賀会が、ワイキキ・ビーチコマー2階に新しくできた「ジミー・バフェット・レストラン&バー」で行われ、お邪魔してきました。
「ベンガル7」のオーナーでもありスキッパー(艇長)のムラセさんは、2001年から毎回このトランスパックに参加しているセーリング暦40年のベテラン・ヨットマン。他6名のクルーとともに、10日間というスピードでハワイに到着しました。東から吹くトレードウィンド(貿易風)に対し、スピンネーカーという風呂敷を広げたようなセール(帆)をつけ、風下に向けて20数ノット(時速40キロぐらい)という超ハイスピードで航行するのが、このレースの最高の楽しみなんだとか。
またハワイにゴールしたときに、地元のヨットクラブのボートが導いてくれ、クラブハウスではマイクでクルー全員の名前を呼んでくれるハワイのホスピタリティも、長旅を癒してくれるそうです。
6名のクルーは、舵を握るヘルムスマン、レース用のウィンチを使ってセールを上げ下げするグラインダー、そしてセールの調整をするトリマーという3つの役割を交代で担うとのこと。2人一組で、4時間起きて2時間寝るというON>STANDBY>OFFという3交代のシフトを取り、24時間x10日間走り続けるのだそうです。しかもシャワーも浴びずに…。
どのルートをどのように走れば、他の艇より速く走ることができるのでしょうか。「ベンガル7」には、気象予報士さんがナビゲーターとして乗っていて、サテライトからの天気情報をコンピューターが割り出すソフトを使ったり、ヨット専門会社からの天気情報、そして自分が持っているデータを総合してベストな航路を見つけるとのこと。今回は、ほとんどのチームが選んだ貿易風が強い南ルートでなく、距離的に近い北ルートを選んだ「ベンガル7」が、すばらしい結果を残すことになりました。
ずうずうしい僕は、翌日「ベンガル7」に乗せてもらいました。アラワイ・ヨット・ハーバーに、美しいレース艇が何艇も並んでいる姿は壮観です。静かにハーバーを出てセールを上げると、日本へ帰国用のひと回り小さいセールにもかかわらず、その大きさにびっくり。いつのまにかスーっとスピードが出て、8ノットくらいの巡航速度でダイヤモンドヘッド沖をセーリングします。斜め前から風を受けてクローズホールドで走りながらヒール(斜めに傾く)するのは、セーリングならではの醍醐味。偶然、ワイキキ沖で出会ったもうひとつの日本艇「レグラス」と笑顔で会話を交わしながら並んで走ったりと、レース後のリラックスしたセーリングも本当に楽しそうです。
クルーのお話によると、長い航海に出られることがトランスパック・ヨットレースの最大の魅力だとか。月夜か満天の星、そしてトビウオからイルカ、クジラまで見ることができる長い航海。男のロマンとして、いつかヨットで長い航海に出てみたいものです。
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