アロハ! メグミです。
先日、マリエカイ・チョコレートの編集部テイスティング記事でも書きましたが、ハワイでは数年前からクラフト・チョコレートのブームが勃発中です。
なぜでしょうか?
それは、
ハワイは、全米で唯一、カカオ栽培ができる場所だから。
コーヒーも同じで、全米広しといえど、コーヒー栽培ができるのは、ハワイだけと言われています。
世界三大コーヒーのひとつに数えられるハワイ島コナのコナコーヒーをはじめ、いまやコーヒーはハワイの主要な特産物。おみやげでも大人気ですよね。それもそのはず、ハワイでコーヒー栽培が始まったのは、100年以上も前のこと。
長い年月をかけておいしいコーヒーの生産と、コーヒー市場の開拓が行われてきたからこそ、いまのハワイ産コーヒーの地位があるわけです。それに比べ、カカオ栽培の歴史は、まだまだ、とっても浅いのです。
ハワイでカカオ栽培が行われるようになったのは、ここ10〜20年の話。
とくに、この10年の間に、カカオ農場が増え、ぐんぐんと農地を広げている印象です。その背景には、冒頭でのべた「クラフト・チョコレートのブーム」があります。
大手お菓子メーカーとは違い、カカオの産地にこだわりながら手作りされる「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー/カカオ豆から板チョコへ)」がモットーとされる、それがクラフト・チョコレート。
…と、ここで、そもそもな話なのですが、
じつは私、チョコレート、そんなに好きじゃなかったんですよ。ドロドロしてて、甘ったるくて、歯にしみるし。
とりあえずチョコで包めば何とかなるでしょっていう、ごまかしが利くところも、いけ好かない。ところが、ハワイ産のクラフト・チョコレートに出会ってから、チョコレートに対する考えが、ガラッと180度、変わりました。
「なにこれ、大人の食べ物じゃん」
と、思いました。
ウイスキーとかワイン、クラフトビールなんかと通じるものがあります。
あとチーズも。基本的な原料は同じでも、原料の産地や生産プロセス、熟成具合によって味がガラリと変わってしまうモノ。
つまり、作り手のこだわり次第!なモノ。それってつまり、掘り下げれば掘り下げるほど、知れば知るほど、楽しくなってくるタイプの世界、なんですよね。
ということで、前置きが長くなりましたが、これから、
「ハワイ産チョコレートって、何?」
「いったい何がすごいの?」といった点について、掘り下げていきたいと思います。
うんちく満載でお届けしますよ〜! みなさま、メモのご用意を!(笑)。さて、今回、ハワイ産チョコレートの世界に入っていくにあたり、水先案内人になっていただくのは、この方!
「マドレチョコレート」創業者、ナット・ブレッター博士です!
はい。
ナットさんは、ニューヨーク州大学にて民族植物学の博士号を取得している、れっきとした博士です。
民族植物学のひとつとして、南米でカカオに出会い、そこからチョコレートの世界にどっぷりと浸かっていった人。チョコ沼の住人です。博士号を取ったあと、ハワイ大学で2年間、民族植物学の研究をした際に、ハワイ産カカオの魅力にハートをつかまれ、そのままハワイでチョコレート会社を立ち上げてしまった、というわけですね。
それが「マドレチョコレート」というブランドなのですが、2011年に創業して以来、世界のさまざまなチョコレート賞を25個も獲得しているんです。
さすが博士。のめり込むと、すごいんですね…。
さて。
そんなナット博士に、私がお会いするのは、これで4度目ぐらいなのですが、今回お話を聞いていちばん驚き、目からウロコだったのが、
チョコレートは発酵食品だ
ということ。
キムチや納豆と同じ、微生物によって発酵をうながしていく、アレです。
お酒類やチーズもそうですね。「だから僕は、”カカオのつけもの” と呼んでいます」
と言う、ナットさん。
でも…ええと、チョコレートが、つけものと同じ…?
どういうことだ???と、まず、頭が混乱しまして。
ところが、お話を聞いていくと、「微生物による発酵」のプロセスが重要だからこそ、ハワイ産のクラフト・チョコレートがすごい、という事がわかったんです。
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さて、本題にいく前に…。
みなさん、チョコレートが、どうやってできるか、ご存知ですか?チョコレートの原料は「カカオ」。
カカオは、こんな植物です。
ラグビーボールみたいな形をしています。
緑のものは、まだ熟す前。熟すと黄色または赤色になります。現在、栽培されているカカオは、下記の3種類から派生したものだと言われています。
「フォラステロ種」
南米のアマゾン北部が原産地の野生種。「クリオロ種」
マヤ文明の頃から生息していたと言われるカカオ原種。「トリニタリオ種」
フォラステロ種とクリオロ種をかけ合わせたハイブリッド種。1、カカオの収穫
熟したカカオを収穫したところ。
割ると、中には20粒ぐらいの種が入っているのですが、これがカカオ豆です。
種のまわりには、白いねばねばした果実がついています。
カカオ栽培が盛んな南米やアフリカでは、この果実の部分を朝食がわりに食べることもあるそうですよ。果実の部分を使ったドリンク。
カルピスみたいな、爽やかでミルキーで、ちょっと酸っぱい味。2、果実を取り除き、乾燥させる
この小屋で、カカオ豆から果実を取り除いたり、天日乾燥を行います。
カカオ栽培農家には、こういったカカオ豆プロセスを行う施設が併設されています。3、焙煎する
乾燥させたカカオ豆を、ローストします。
上の写真は、サンプル用の小さなロースターですが、実際にはもっと大きな業務用の焙煎機が使われます。これが焙煎後のカカオ豆。
チョコレートの原料っぽさが出てきました。4、カカオ豆を粉砕する
焙煎したカカオ豆を割ってみたところ。
カカオ豆は硬い殻におおわれています。殻の中にあるのが、チョコレートの原料となる「カカオニブ」です。
機械でカカオ豆を粉砕します。この時、カカオニブと殻を分け、カカオニブだけを使います。
さらに、カカオニブをすりつぶして粉状の「カカオマス」にします。
5、練り上げる
カカオマスとバニラビーンズ、砂糖などの原料を混ぜ、練り上げます。
かなりチョコレートっぽくなってきました!6、型に流し込む
ハワイ産のクラフト・チョコレートのほとんどは、バー(板チョコ)です。
7、冷やして固める
8、パッケージ詰め
はい、これでチョコレートの出来上がりです!
では、この流れをふまえたうえで、さっそく、ナット博士のお話に移りましょう!
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量産型チョコに含まれるカカオは、たった11%。
──ナットさん、なぜ、ハワイのクラフト・チョコレートは、大手お菓子メーカーのものと、こんなに風味が違うのですか?
ナット:はっきり言って、原料がぜんぜん違います。
チョコレートと呼べるのは、カカオが11%以上含まれているものと法律で定められているのですが、ドラッグストアで安売りされているタイプのチョコレートは、11%ギリギリですね。残り89%は混ぜものです。
──ビールと発泡酒の違い、みたいな感じですかね。
ナット:もちろん好きずきですから、どちらが良い・悪いというものではありません。
ただ、チョコレートが好き、チョコレートが食べたいと思ったとき、罪悪感を抱きませんか?「太っちゃう」「健康にわるい」「虫歯ができる」と。
それはチョコレートが甘くて高脂肪・高カロリーで、虫歯や糖尿病の原因になるという知識があるから、なのですが…。
じつはこれ、間違いなんです。チョコレートは、本来、甘くもなければ、高カロリーでもない。むしろ、ポリフェノールがたっぷり含まれ、健康に良い食べ物なんです。
ところが、カカオ含有量は11%だけで、残りはすべて砂糖、ミルク、脂肪、その他の原料…となると、ヘルシーな食べ物とは言えませんよね。
僕は、以前はよくチョコレートの健康への有用性を語っていたのですが、もう止めたんです。なぜなら、誰も聞いてくれないから(笑)。「そんなことより、早く美味しいチョコレートを食べさせてくれ」っていうのが、みんなの本音ですよね。
──美味しいから食べるのであって、健康のために食べる人は少ないでしょうね。でも、チョコレートが虫歯や糖尿病の原因にならないというのは、知らない人がほとんどかも。
ナット:高濃度のカカオを使ったチョコレートが健康に良いことは、正式な実証結果も出ている事実です。
チョコレートの主な原料は、カカオニブ、砂糖、カカオバター、バニラビーンズ。ミルクチョコの場合は、乳製品が加わります。
同じハワイ産でも、場所によってカカオの味は違う。
ナット:それに、健康に良いだけでなく、カカオの風味がしっかり感じられるのも、高濃度カカオのチョコレートの良さだと思います。カカオは産地によって味わいが違うので、高濃度カカオのチョコレートを食べ比べると、味の違いがハッキリとわかります。
ワインは、原料となるぶどうの産地や種類、熟成によって味が変わりますよね? チョコレートも同じです。南米産、アフリカ産、ハワイ産と、カカオの味は全部違いますし、同じハワイの中でも、オアフ島のカカオとハワイ島、マウイ島では、どれも違う味がします。
──同じハワイの中でも、そんなに違うんですね。
ナット:コーヒーが好きな方ならわかりやすいと思いますが、同じハワイ島のコーヒーでも、コナコーヒーとカウコーヒーでは、味わいが違いますよね。
また、同じカカオを使ったとしても、加工のプロセス…とくに発酵の仕方によって、チョコレートの味は全く違うものになります。僕は、チョコレートの味を決めるのは、発酵だと考えています。この点も、ワインとよく似ていますね。
──発酵?
ナット:ええ、発酵です。多くの人は知らないで食べていますが、じつはチョコレートは、発酵食品なんですよ。つけものやキムチ、納豆と同じです。
カカオの実を収穫したら、豆を発酵させ、その後に天日干しで乾燥させます。まさに「カカオのつけもの」です。家でつけものを漬ける人ならわかると思いますが、気温や湿度、そのほかさまざまな条件によって、発酵が変わり、味わいも変わる。とても奥深い世界です。
Guabancexとは、台風の女神。マドレチョコレートの工房にある機械には、神様の名前がつけられています。こちらはカカオの殻を吹き飛ばしてカカオニブだけを選別する「とうみ」。
11もの微生物が活躍する、発酵のプロセス。
──発酵を管理するのは難しいのでは? なにかと手がかかりそう。
ナット:はい。カカオ豆の発酵には、11種類もの微生物が登場します。お酒はだいたい1種、チーズが3種なので、チョコレートはそれよりもかなり多くの微生物が活躍しているわけです。
ところが、これまでのチョコレート作りにおいて、カカオの発酵は、あまり重要視されていなかったんです。
──味の決め手となる重要な工程なのに、ですか?
ナット:そうです。なぜなら、そこには地理的な理由もからんでいます。
通常、カカオ豆の発酵は、カカオを栽培する農家が行います。カカオはフルーツなので、生のままだと日持ちしません。乾燥した豆ならば、日持ちがするので、遠くまで運ぶことができます。
最近では少し変わってきてはいますが、以前は、チョコレートを作り、消費されるのは、北米やヨーロッパなどの欧米諸国でした。一方、カカオを生産しているのは、アフリカや南米です。生のフルーツを輸送するには、遠すぎる距離ですよね。だから、栽培から収穫、発酵などのプロセス、乾燥までを、カカオ生産農家で行うことになったんです。
──農家の人が、作物を育てながら、そのかたわらで発酵などのプロセスも行うのは、大変そうですね…。
ナット:そうですね。ただ、南米やアフリカは、カカオ栽培の歴史が長く、代々受け継がれてきたスキルがあるので、効率的な作業ができているとは思います。
しかし…ここからが問題なのですが、生産農家の人たちが、出来上がったチョコレートを食べることは、ほとんどないと言われています。
自分たちが育て、収穫し、発酵させたカカオが、どういう味のチョコレートになったかのかがわからない。トライ&エラーで、発酵の技をブラッシュアップしていける環境ではないのです。
──たしかに…。メキシコ産カカオを使った高級ベルギーチョコレートがあったとして、それがメキシコの市場に出回ることは、少なそうですもんね。
カカオの果実部分を使った、珍しいお菓子。マドレチョコレートで販売されています。
ナット:ところが、ハワイでは、カカオ栽培からチョコレート生産、販売までを、同じ島で行うことができます。まさにビーン・トゥ・バーの利点はそこにあります。
ハワイでは、自分が育てたカカオが、どんな味のチョコレートになったのかを、生産農家の人たちが食べて感じることができるんです。だから発酵工程の技を磨きやすい。「こういう味になったのか、じゃあ次は温度を上げてみよう」といった具合にね。
──おお、なるほど! だからハワイのビーン・トゥ・バー・チョコレートは美味しいんですね!
まだまだ発展途上。だから伸びしろがある。
ナット:……まあ、理論的にはそうなのですが、ここにも問題があります。ハワイでカカオ栽培が本格的に始まったのは、つい最近なので、まだ歴史が浅く、ノウハウがありません。発酵に関する知識も、微生物の扱いについても、よくわからないまま、作業を進めている生産者が多いんです。
──まだ手探り状態、というわけですか。
ナット:はい。でも、だからこそ伸びしろがあると、私は考えています。
マドレチョコレートでは、年に1回「チョコレート・ブートキャンプ」を行っているのも、そのためです。ブートキャンプでは、カカオ農園に泊まり込み、カカオ豆の発酵について指示したり、生産環境についてアドバイスします。
そして、出来上がりの違いを、自分の目や舌で確かめてもらいます。これがとても大事で、「じゃあ次はこうしてみよう」と、生産農家の方のモチベーションにもなっていると思います。
──自分の育てたカカオが、どんどん質が上がり、美味しいチョコレートになっていく工程は、とてもやり甲斐があるでしょうね。
ナット:この温度と湿度、この工程をふんだから、この苦味が出るんだな、ということを、体感しながら身につけていきます。ハワイ産カカオ自体、まだまだわからないことが多いので、今はまだ、実験をしながら理解を深めているプロセスの段階でもあると思っています。
生産農家のエデュケーションを進めることと、ハワイ産カカオやチョコレートの開発を、同時に行っている状態ですね。
──それができるのは、植物に対してアカデミックな知識があるナットさんならでは、という気がします。だからマドレチョコレートは25もの賞に輝いているんですね〜。
ナット:ありがとうございます(笑)。常に新しい発見があり、いまでも進化している。それが、チョコレートの魅力です。
チョコレートは南米で生まれ、4000年ほどの歴史があると言われています。だから、同じ南米のオルチャータやチリペッパーと愛称が良いんですよ。そういった歴史を紐解くのも、楽しいですね。
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「カカオの産地によって味が変わる」「発酵によって味が変わる」「チョコレートのカカオ濃度や、そのほかの材料によって味が変わる」。
これらの味の違いは、いろいろ食べ比べていくと、だんだんとわかってきます。ワインと同じですね。
私は、あまりワインを飲まないので「赤だな」「白ですね」ぐらいしか言えませんが、ソムリエともなると「これはどこどこ産で、この年は寒かったから糖度が高く…」「フルーティな中にも獣のような味わい」とか言ったりしますよね。まさにソレです。
クラフトチョコレートも、知れば知るほど、味わえば味わうほど、美味さがわかり、楽しくなってくる。
と、思います。
そんなチョコレート体験ができる場所が、ダウンタウンにあるマドレチョコレートの工房&ショップ。
おしゃれなショップが多いパウアヒ通り沿いにあります。
バスやトロリーでも行けますが、ダウンタウンはちょっと物騒な場所でもあるので、日中の時間帯がおすすめです。
車で行く場合は、目の前のコインメーターが空いていたらラッキー。私はいつも、ベレタニア通り沿いのパブリック駐車場に停めています。入り口はベレタニア通りですが、出口はパウアヒ通り沿いで、ちょうどマドレチョコレートの隣りに出てきます。
店内では、マドレチョコレートのさまざまなチョコレートを無料で試食できます。どれも量産されない数量限定なので、気に入ったらその場で購入しないと、次はないかもしれません。
私が大好きなハーブケア「インディゴエリクサー」のマッサージバーもありました!
ホット・ミント・チョコレートって、美味しそうなドリンクみたいだ…(笑)。もっとハワイ産カカオやチョコレートについて知りたい!という方は、マドレチョコレートが主宰する「カカオ農園&チョコレート工場見学&お菓子作りツアー」がおすすめ!
私も参加したことがあるのですが、かなり楽しいです。
詳しくはレポート記事をどうぞ↓ ↓
ちなみに、現在は不定期開催となっているようです。
また、ダウンタウンのお店では、チョコレートとウイスキーやワインのペアリング会など、さまざまなイベントを頻繁に行っています。チョコレート作りレッスンもありますよ。
毎月、第一金曜日の夜にダウンタウン&チャイナタウンで開催されている「ファースト・フライデー」の日には、マドレチョコレートでは音楽のライブが行われたりと、ちょっとしたイベントを開催しているので、のぞいてみると面白いかもしれません。
ということで、長くなってしまいましたが、何が言いたいかというと、
やっぱりハワイのクラフト・チョコレートは面白い!
ということ。
まだまだ進化していきそうなので、これからも、引き続き注目していきたいと思います。みなさまも、ぜひ、ご一緒に〜!
※Madre Chocolateは閉店しました(情報更新:2018年10月2日)
この記事を書いた人
マローン恵(メグミ)
アロハストリート副編集長。ワイキキ、マノア、モンサラット、マキキを経て現在はカイムキ在住。好きなものは地ビールと地コーヒーと地チョコレート(全部発酵食品!)。ハワイ島取材班としても意欲的に活動中。
Twitterアカウント:@Megumiinhawaii
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