ハワイ / 歴史 / 文化 - カメハメハ大王像の秘密あれこれ
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第3回は、ご存知カメハメハ大王像について。オリジナル像は海底から引き上げられ、なんと店先に飾られていた!?
公開日:2018.04.17
更新日:2018.06.15
フォークランド諸島の店先に飾られていた
初代のカメハメハ大王像
Aloha! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。3回目は、ホノルル・ダウンタウンのカメハメハ大王像がテーマ。ハワイの象徴でありながら、知っているようで知らないカメハメハ大王像の、ちょっと意外な逸話をお届けしましょう!
カメハメハ大王像が建立されたのは、ハワイ王国時代の1883年。イギリスのクック船長のハワイ諸島発見(1778年)の100周年記念事業として立案され、除幕したのは王国7代目の君主、カラカウア王でした。カラカウア王はこの日、大王像から通りを挟んだ向かいに建つイオラニ宮殿から大王像まで歩き、除幕式を執り行ったそうです(イオラニ宮殿はその前年に完成しています)。
ご存知のようにカメハメハ大王像は、大変ハンサムで凛々しいですよね。が、残念ながら銅像は、別人をモデルに造られたもの。カメハメハ大王とは全く似ていない…というのが真相のようです。モデルとなったのはカラカウア王の副官だった王族、ロバート・ホアピリ・ベイカーというハンサムさん。ベイカー氏は羽毛のケープにヘルメットをかぶってカメハメハ大王に扮し、その写真を元にイタリアで大王像が造られたのでした。
ところが完成した大王像を積んだ船は、フィレンツェを出航後、アルゼンチン近くのフォークランド諸島近くで沈没してしまいます。現在の大王像が2作目であることは、ガイドブックにもよく紹介されているので、皆さんもご存知ではないでしょうか? 大王像が後に回収され、大王の生まれ故郷に近いハワイ島カパアウに設置された話も、あまりに有名ですね。
ハワイ島にある初代の大王像
この初代の大王像が発見された経緯については、まるで海の底から船ともども引き揚げられ、ハワイに即、運ばれたかのようなニュアンスで一般に知られています。ですが実際は、そんな単純なストーリーではありませんでした。引き上げられた大王像はまずはフォークランド諸島の某店に売られ、なんと店のインテリアと化していたのです!
それを見て、「これは由緒正しきハワイ王国建国の父の似姿だ!」と気づいたのが、ジャービスというアメリカ人船長でした。ポルトガルからハワイへの航海の途中だったジャービス船長。定期的に訪れるハワイで、海に消えた大王像の話を小耳にはさんでいたのでしょうね。大王像を店から買い取ってハワイに運び、ハワイ王国は$875を支払って大王像を引き取った…というのが、事の顛末です。ハワイ王国建国の経緯といい、大王像発見の奇跡といい、カメハメハ大王という人物は大変な強運の持ち主だったようです。
後姿も凛々しい
カメハメハ大王像
さてこの大王像、金色の輝きを放ち見目麗しく、俗にいう「インスタ映え」のする史跡ですよね。正面も素敵ですが、さらに四方をグルッと回って、じっくり眺めていただきたいと思います。まず、後ろ姿の大王像も印象が変わって良い感じです(この大王像の差し出す右手の先には、私がボランティアをするイオラニ宮殿が建っております)。
そして大王像の土台の四辺には、大王の生涯を象徴する4枚の銅版画がはめ込まれており、歴史的にも一見の価値あり。以下、銅版画に描かれた4場面を写真とともにご紹介しましょう。
正面:「砕けたパドルの法律」の舞台(敵陣だったハワイ島ヒロ郊外の海岸で、襲った村人の反撃にあい、パドルが砕けるほどに殴られたカメハメハ。後に捕まった村人を赦免した際に言った「何人もその平和を理由なく侵されるべきではない。安全な生活を営む権利、自衛権がある」との言葉は後に法律化され、ハワイ初の人権保護法とみなされています)
銅像向かって右側:クック船長のレゾリューション号がハワイを訪問する場面(若きカメハメハも実際、レゾリューション号を訪れています)
銅像向かって左側:カヌーの大軍団を眺めるカメハメハ(カメハメハ軍は800隻もの双胴カヌーを誇っていました)
背面:カメハメハが一度に投げつけられた6本の槍を受け止める場面(イギリスのバンクーバー船長が実際に目撃した故事によるもの)
どうです? 知れば知るほど興味深いのが、カメハメハ大王像なんです。正面でパチリと記念撮影して終わり、だなんて。ましてやバスの中からチラッと見て終わりなんて、もったいなさすぎますよ~。
なおハワイでは、6月11日は大王を讃える州の祝日、キング・カメハメハ・デー。毎年、11日に近い金曜日には、銅像にレイを贈るセレモニーも開催されます。年により開催日は変わりますが、今年は6月8日に開催予定。古典フラも踊られ多数のレイが捧げられ、なかなか見所のあるセレモニーです。翌9日には、銅像からワイキキに向けてパレードも出発しますよ~。
そんなわけで、運よくこの時期にハワイ入りする方は、パレードだけでなくレイセレモニーもお見逃しなく。ダウンタウンでお待ちしています!
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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