ハワイ 歴史 / ハワイ王族53人が眠る王家の霊廟
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第4回は、ハワイ通でも意外と行ったことがない人が多い、ハワイ王族が眠る霊廟について掘り下げます。
公開日:2018.05.16
更新日:2018.05.23
リリウオカラニ女王も永眠する
ハワイ王国の残り香ALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。4回目は、私的にハワイ随一の聖地と考える、ホノルル・ヌウアヌの王家の霊廟(ロイヤル・モザリウム)についてお話ししましょう!
…今この瞬間、皆さんの頭のなかに「え? 王家の霊廟って??? それナニ?」という言葉が、一斉に浮かんだような気がします(苦笑)。王家の霊廟は一般のガイドブックには出てこないうえ、確かに多くの日本人には馴染みのない場所かもしれませんね。ですがここは、ハワイの人々にとってそれは大切な場所なのです。カメハメハ2世~5世、カラカウア王、リリウオカラニ女王という6人の君主、そしてエマ王妃やカピオラニ王妃、カイウラニ王女などなど、50人以上の王族が埋葬されているのですから。
ハワイ王家の霊廟としてはもともと、ホノルル・ダウンタウンの現イオラニ宮殿庭に、小さな墓所がありました。カメハメハ2世など18人の王族の亡骸が安置されていましたが、いつしか満杯になり、新霊廟が建てられることに。カメハメハ5世の治世だった1865年に新霊廟が完成し、とある満月の夜、大がかりな葬列が組まれ、旧霊廟から王族18人の遺体がこの地に移されたのでした。
海を見下ろす広い霊廟の敷地には礼拝堂があるほか、カメハメハ王朝、カラカウア王朝など、一族ごとに5つの墓所が造られています。墓所は全て地下にあり、地下室への階段が今も開いているのは、子孫の残るカラカウア王朝だけ。その他は地下室への階段が全て埋められ、その上には墓碑が建っています。その墓碑を拝みながら「この足の下の地下室に王族が眠っているんだ」と思うと、日本人としては少し心がザワザワしますが…。アメリカの墓とはそういうものなので、どうぞ気にしないでくださいませ。
礼拝堂の入口は施錠されているが、管理者に頼めば中も見学可能
この墓碑の下にはカメハメハ王朝の王族が眠っている
なお今も出入りが可能なカラカウア王朝の墓所にしても、残念ながら一般の人々は入場禁止。フェンスの外からお参りする形になります。過去に何度か、地下室で雑誌用の写真を撮らせていただきましたが、地下の壁には王族の棺が埋め込まれ、その上を覆う大理石に各々の王族の名前が刻まれていました。すぐそこにあのリリウオカラニ女王やカラカウア王が埋葬されていると思うと、やはり畏れ多さに足がすくむような気がしたことを告白します。
カラカウア王朝の地下墓地の入口
地下墓地にあるカラカウア王の胸像と墓標
リリウオカラニ女王の墓標
カメハメハ大王の時代から
王族の遺骨を守るマイオホ一家ちなみに王家の霊廟は代々、王族の末裔であるマイオホ一家によって管理されています。マイオホ一家は、カメハメハ大王の従兄弟の直系にあたる一族。大王の甥の時代に王族の遺骨の管理を任され、現職のカイさんが8代目のカフ(管理者)。そのお父さんで7代目だった故ビルさんにはかつていろいろ興味深い話を伺いました…。
たとえばカメハメハ王朝の地下室内部には珊瑚の壁が張られ、いくつかのお棺には、王族だけが身につけることのできた羽毛のマントがかけられているのだそうです。昔々のハワイでは遺骨を海中洞窟(入口は海面下、でも中に広大な乾いた洞窟が広がっている)に隠すことがあったので、地下室を海中洞窟に模し、珊瑚を張ってあるとのことでした。
ビルさんは、こんなこともおっしゃっていました。「なかには自分がカメハメハ一族だということを証明したい、王族のDNAが必要だなんて言って、カメハメハ王朝の墓所を開けてほしいと言ってくるハワイアンもいるんだ。もちろん、そんなことはできない相談だけどね(笑)」。ずいぶん罰当たりな人もいるものですね!
王族の眠りを守る?
樹齢150年のカマニの木さらにビルさんからは、いくつかスピリチュアルな話も伺いました。そのひとつが、霊廟の門にかぶさるようにして立つ、大きなカマニの木にまつわる話です。
霊廟の門とカマニの木この木は昔、カメハメハ4世夫人のエマ王妃が植えた、樹齢150年以上の立派な木なのです。そして霊廟を守るスピリットが住んでいる…と噂される木でもあります。そのスピリットは時に、通り過ぎる人の名前を呼ぶとのこと。ビルさんのお母さんも、ある夜「ナマハナ!」と呼び止められ、ギョッとしたことがあるそうです。もちろん周囲に人影のない、深夜の出来事でした。
また、ある時にはこんなことも…。カマニの木の枝を州のお役人が切ろうとした時のことです(注:霊廟の土地はハワイ州の管轄下にあります)。ビルさんのお母さんは口をきわめて反対したのですが、ついに業者がやって来て、電動のこぎりのスイッチを入れたそう。ところが、何度やってもスイッチが入らなかったそうです。
そうこうするうち業者は諦め、ほかの電動のこぎりを持って出直そうと、いったん事務所に引き上げることにしました。念のため、事務所でもう一度チェックしてみると。ウイ~ン!とすぐのこぎりにスイッチが入ったので、業者はビックリ仰天! すっかり恐ろしくなり、「俺はもう、あの木を切りに戻らないゾ」と、霊廟に戻るのを拒否したのだそうです。う~ん…。何とも不思議ですが本当の話。
この木はまさに霊廟の入口を守るかのような形で茂っており、日本からやって来たある神主さんは、「なんだか鳥居みたいに見えますね」とおっしゃっていました。やはり…この木は、「邪悪なものは帰れ!」といにしえの王族方を守っている、聖なる存在なのではないでしょうか? 私はそう信じています。
今回ご紹介した王家の霊廟は、もちろんルンルン気分で出かける気軽な場所では決してありません。ですが一方で、ハワイの歴史に興味のある方にはぜひ出かけていただきたい、第一級の史跡なのは確か。ぜひ王族方の御霊に敬意を払いながら、お参りしてみてくださいね。ワイキキからは4番バスに乗り、約40分。土曜、日曜、祝日は閉園なので、ご注意くださいね。
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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