カメハメハの野望を叶えた神殿、プウコホラヘイアウ
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第7回の舞台は、ハワイ島。御神託をもとに建立されたカメハメハ大王ゆかりの神殿について。
公開日:2018.09.27
戦いの神に捧げられた
プウコホラヘイアウALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。
先日、ハワイ州観光局の文化プログラム「アロハプログラム」主催のツアーで、ハワイ島&マウイ島に行ってきました。アロハプログラムではハワイ文化に関するハワイスペシャリスト検定を実施していまして(私も検定問題、作ってま~す)、その上級合格者を対象にしたディープなツアーが、今回初めて行われたのです。
そこで今回は、ツアー初日に訪れたハワイ島コハラコーストのヘイアウ(神殿)、プウコホラヘイアウについてご紹介しましょう!
ハワイにヘイアウはたくさんありますが、中でもプウコホラヘイアウは、指折りの重要な史跡。1791年、カメハメハ大王が建設したハワイ最大級のヘイアウで、一帯は国立歴史公園として手厚く保護されています。そもそもその建設の経緯からしてものすご〜くミステリアス! 要約すると、以下のようになります。
ハワイ諸島統一を目指して、各島制覇に乗り出したハワイ島出身の若き王族、カメハメハ。マウイ島、ラナイ島、モロカイ島を次々征服しましたが、ハワイ島については、その半分は従兄弟でライバルのケオウアに支配されていました。
そんな時、カウアイ島の高名な預言者から神託が届きます。「プウコホラの丘に戦いの神クーのためのヘイアウを建てよ。そうすれば全島を統一できるだろう」。それを聞いたカメハメハは、1790年、さっそくヘイアウの建設に乗り出しました。
ヘイアウ前にはプウロウロウ(立ち入り禁止を示すスティック。
王族の住居前や聖地に立てられた)がある 見事に実現した
カウアイ島預言者のお告げ大きな石造りのヘイアウ建設には1年以上かかり、数千人のハワイアンが現地で寝泊まりしながら作業したそうです。しかも戦いの神を喜ばせるため、作業は神託に厳密に従いながら、完璧に進められなければなりませんでした。たとえば、「建設に使われる石は、水に洗われた溶岩でなければならない」。そこで30キロ以上離れたポロル渓谷の海辺から、プウコホラの丘まで屈強な男たちが一列に並び、手渡しで岩を運んだのでした。
ビジターセンター前にはヘイアウ建設に使われたのと同じサイズの岩の展示も。どれほど重いか持ちあげて試してみよう
作業にはカメハメハをはじめ王族も加わりましたが、その兄だけは作業から除外されていました。ヘイアウでの宗教儀式のため、王族の一人は儀式的な意味合いで清廉な身でなければいけなかったからです。
こうして壮大なヘイアウが完成したのが1791年夏。いよいよヘイアウを神に捧げる儀式が予定され、そこに招かれたのが宿敵、ケオウアです。ところが。ケオウアは到着直後にカメハメハの戦士に倒され、そのままヘイアウの生贄にされてしまったのでした。
いったいケオウアはそれを承知で、カメハメハに降伏するためやって来たのでしょうか。それとも? …今となっては神のみぞ知る、ですが、いずれにしろ宿敵を葬ることによって、カメハメハはハワイ島の王者に。快進撃は続いて残りの島々も征服し、1795年、ついにカメハメハはハワイ王国を建国。「プウコホラにヘイアウを建てれば…」の預言が、見事実現したわけです。
ビジターセンターではヘイアウ周辺の歴史が学べる
近くの入江には
鮫の神のヘイアウもさて、プウコホラヘイアウの周辺には、ほかにも史跡が点在しています。たとえばヘイアウのある丘の真下には、さらに古いマイレキニヘイアウ跡が。戦いの神または農業の神に捧げられたヘイアウで、かつてはプウコホラヘイアウとほぼ同じ規模だったとか。ところが、後にカメハメハによって砦として使われることになりました。
さらに下っていくと小さな入り江がありますが、その海底には鮫の神のためのヘイアウ、ハレ・オ・カプニが眠っています(以前は海上に一部姿を見せていたのですが、今では海面下に沈んでいます)。鮫の神のヘイアウにはかつて、人間を含む供物が捧げられていました。その生け贄に鮫が群がる様子を、アラパイという王族がよく高台の岩に寄りかかって眺めた…との話も残っています(ゾ~ッ!)。
鮫の神のヘイアウが沈む入江。運がよければ泳ぎ回る鮫が見られる
今も入り江には鮫が頻繁に出没するため、浜辺には「この湾では数世紀にわたり鮫がよく目撃されています。水に入らないでください」との注意書きも。実際、私も数年前、ここで鮫を見たことがあります! 2〜3匹の鮫が入り江を悠々と周遊し、水上にひれが突き出ていました。ハワイで25年以上暮らしていますが、鮫を見たのは後にも先にもその時だけ。鮫は自分たちに捧げられたヘイアウを、「ここは俺たちの陣地だゾ!」と、しっかり守っているのかもしれませんネ。
チャントに呼応し
ヘイアウが蘇った?最後に余談になりますが、じつは先日のプウコホラヘイアウ訪問で、ちと不思議な経験をした私。いえいえ、それは別にカメハメハ大王の影を見たとか、どこからともなく法螺貝の音が聞こえてきて…とか、そんな真物の不思議話ではアリマセン。ただ何となく…の範疇なのですが。
今回、ハワイ島在住のクムフラ(フラの師)、ケアラ・チンさんの案内でヘイアウを見学したラッキーな私たち。ヘイアウの話を伺い、お供え物を作り、ヘイアウに捧げるチャント(詠唱)を学び…。まずヘイアウの下で全員でチャントし、続いてケアラさんが異なるチャントを朗々と捧げた時、私は不思議な感慨に包まれたのです。
ヘイアウ下の供物台。横に立つのはクムフラ、ケアラ・チン
ケアラさんがチャントを捧げたとたん、何だかヘイアウに魂がこもったと言いますか。岩造りの遺物が以前の威厳を取り戻し、真の神殿に変化(へんげ)したような印象を強く受けたのでした。プウコホラヘイアウはこれまで何度も訪問していますが、そんな風に感じたのはそれが初めて。気のせい…と言われてしまえばそれまでなのですが、何だか圧倒されてしまい、言葉が出ませんでした。うまく説明できないのが残念ですが…。
…思えば、あんなに神のお告げに忠実に建てられ、さまざまな儀式が行われてきた神殿なのですもの。もしかしたらヘイアウとしての聖なるエネルギーは、今もしっかり残っているのかもしれませんね。
そんなわけで、プウコホラヘイアウを訪れる時は、ぜひ敬意を持って訪問していただきたいものです。間違ってもガムをくちゃくちゃ、なんてダメですよ~。お行儀よく見学してくださいね!
ハワイの不思議なお話〜ミステリアスハワイ
森出じゅんさんの著書「ハワイの不思議なお話〜ミステリアスハワイ」。
歴史や神話、伝承、スピリチュアルな世界まで、ハワイの知られざる一面を、独自の調査・研究に基づき、じゅんさんならではの視点で紹介した一冊です。読めば、ハワイに描くイメージが変わるかも? ディープなハワイを知りたい方は、必読ですよ〜!
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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