アロハ! メグミです。
じつは少し前のことなのですが、カカアコ地区にある、とあるご夫婦の工房にお邪魔してきたんです。
あ、すみません、いまインスタグラムを見たら、少しじゃなくて6カ月も前でした…(苦笑)。
とっても素敵なこちらのご夫婦、何をしている方たちなのかといいますと…。
こういったものを作っているんです↓Photos by Linny Morris
そう、
オーダーメイド家具職人さんなのです!
上の写真は、貴重なハワイ産コアウッドの一枚板を使ったテーブル。
曲線と直線の絶妙な組み合わせ、美しい木目や木のエッジを活かしたデザイン。温もりと隙のなさが同居したこの感じ…とっても良いですよね。個人的にむちゃくちゃ好みです。このおふたりは、「サトシヤマウチ・ウッドワークス(Satoshi Yamauchi Woodworks)」の家具職人・山内聡さんと、デザイナーのリゼ・マーシャさん。ご夫婦で営む小さな家具工房ですが、なんと予約は何カ月・半年待ちという大人気なのです。
家具工房があるのは、工場やギャラリー、新築コンドミニアムがひしめき合うカカアコ地区のとある場所。
大きな2階建てのこちらの施設は、小規模の家具屋さんや家具職人さんが入居する集合アトリエ。この一角に、おふたりの工房もあります。
建物に入ると、ちょっと埃っぽい空気の中に、香ばしい木のにおいを感じます。
裁断機をはじめ、家具作りに必要なさまざまなマシンや道具が並びます。これらの機材をほかの職人とシェアしながら、作業を進めていくんですね。
こちらが、おふたりの工房。
通常、この工房にお客さんが来ることはありませんが、今回は特別に入れていただきました。けっして広いとは言えないこの空間から、あの存在感たっぷりのテーブルが生み出されるとは、想像もつきません。
家庭用の家具だけではなく、
某一流有名ホテルのフロントデスクや…。
同ホテル内レストランのビュッフェテーブルまで、この小さな工房から生み出されているんです。しかも、たったふたりの手で!
こんなに超有名なホテルに使われるのは、もっと大工場の家具かと思っていたのですが、まさかふたり、しかも日本人の職人さんのものだったとは…。驚くやら、同じ日本人としてうれしいやら。
今回、おふたりの作るオーダーメイド家具について、また家具職人というお仕事について、たっぷりお話をお伺いしました!
Profile
右:山内聡
家具職人。岐阜県立森林文化アカデミー卒業後、飛騨高山の家具工房での修行を経て、東京での店舗・住居の内装や作り付け家具の製作に従事。2013年2月よりハワイにて家具工房をオープン。左:リゼ・マーシャ
家具デザイナー。Satoshi Yamauchi Woodworksではお客さんとのやりとりや契約など、デザインに限らず幅広く担当している。Satoshi Yamauchi Woodworks
ウエブサイト:https://swoodwork.com/
Instagram:@satoshiyamauchifurniture木材の流通上、「末端」のハワイで。
──ハワイに日本人の家具職人さんがいるということに、まず驚いたのですが。ハワイで家具屋さんを始めたきっかけは?
山内聡さん(以下、聡):彼女(マーシャさん)のお姉さんがハワイに住んでいて、「ハワイでビジネスやってみない?」というお話をいただいたのが、最初です。いろいろサポートしていただきつつ、今に至るという。それが5年前かな?
リゼ・マーシャさん(以下、マーシャ):そう。2012年の終わりですね。
聡:ハワイに来て、最初はキャビネット屋さんに1年ぐらい務めました。キャビネット屋さんでは、パーツを組み合わせて大型什器を作っていくんですが、そこでハワイの家具事情…木材の仕入れなどを学ばせてもらって。その後に独立しました。ちょうどこのシェアスペースも空いていて、運が良かったですね。
──やっぱり、日本とハワイの家具作りの事情は、違いますか?
聡:違いますね。まず、木材が違います。日本は立地的に真ん中なので、アメリカ、アフリカ、中国、ロシア、ヨーロッパと、さまざまな木材が入ってくる。さらに日本特有の木もあるので、選択肢が豊富なんです。ハワイは、アメリカ本土のものと、ローカル産のものが主流ですね。
マーシャ:ほかの土地の一枚板などの木材をハワイに運んでくると、費用がすごくかかってしまうんです。
聡:日本はね、買い付けがすごくしっかりしているんですよ。面白い話があって、アメリカ本土の木材でも、上質なものはアメリカより日本のほうがあるという(笑)。良いものは日本の業者が最初に持っていっちゃうんです。アメリカの中でもさらにハワイは末端なんで、外から良いものが来ないんですよ。
──日本すごいですね! それに比べるとハワイは、上質な材料が少ない、と。
聡:僕は常に感じますよ、材木屋さんに行っても、良いものがないんですよ!(笑)。
マーシャ:そうだね~。だから、材木屋さんでわざわざ届いたばかりの新しいパレットを開けてもらって、そこから良いものだけを選んで使ってますね。
聡:僕らが作る家具はすべてオーダーメイドで、一点物なので、適当な材料を使うわけにはいかない。同じ種類の木であっても、色合いや木目の出方、エッジの風合いなど、一本一本の個性があって、表情もだいぶ違うんです。一本ずつ選んで、しっかり色を合わせて使っています。
──魚市場に買い付けに行くシェフみたいですね。
聡:そうですね(笑)。ちょうど昨日も、ふたりで材木屋さんで1時間ぐらいウォールナット※の山の中をかきわけて、いいものを探してきました。(※ウォールナット:木材の種類)
マーシャ:アメリカの木が少ないぶん、ここにいるとハワイならではの木が使えるので、それはラッキーですけどね。
聡:コアやモンキーポッド、マンゴーなど、ハワイの木材はほとんど外に流出しないので、ハワイならではですね。ハワイの木材は堅く、家具に向いているものが多いんですよ。
空間を作り上げる、ナチュラルなピース。
──家具といってもさまざまな種類がありますが、どういったものを作ることが多いんですか?
聡:最近はテーブルが多いですね。うちのお客さんのほとんど100%近い方がウエブサイト経由なんですが、作った家具をウエブに載せると「これが欲しい」というお問い合わせが来るんですよ。ベッドを載せればベッドが欲しいという人が増える。去年あたりからテーブルの注文が多いので、出来上がった写真をウエブで見た方がまた注文を…という流れになっています。
マーシャ:ハワイの方からのご注文が多いです。とくに一枚板などのナチュラルな家具が人気です。ハワイは家具屋さんが少ないので、自分の好みに合ったものを見つけるのが難しいのかもしれません。こだわりがある方には、とくに(笑)。
聡:最近のハワイのコンドミニアムは、モダン志向なデザインが多いですよね。そういうモダンなお部屋に、ナチュラルなピースがひとつあると、それだけで空間が出来上がっちゃう。木の存在感が、とても良く映えるので。
──うわ〜、想像するだけでゾクッとするほどカッコいいですね!
マーシャ:あとは、ハワイに住んでいた人が、アメリカ本土やヨーロッパに引っ越すのをきっかけにご注文されることもありますね。ハワイ島産コアのデスクや、モンキーポッドのテーブルなど…。日常の中で、ハワイとのつながりを感じさせてくれるんだと思います。
──あの、そもそもの質問で恐縮なのですが、木って、そんなに違うんですか? いや違うのはわかるのですが、家具になったらだいたい同じに見えるというか…。普段、出来上がったものしか見る機会がないので、そう思うのかもしれませんが。
聡:そうですよね。たとえば、キッチンのキャビネットのようなシリーズの家具の色目がそろっているのは、ベニヤを使っているからなんですよ。ベニヤは合板で、何枚かの木を重ねて作ります。外側には同じ木を削ったものを貼っているので、色が同じになるんです。1本の丸太から取れる木の量は限られていますよね? 分厚い板は数枚しか切り出すことができないけれど、薄く削ればたくさんの量のベニヤ板を作ることができます。
ベニヤ板の断面。表面の木は、大根のかつらむきの要領で削っていくので、同じ色柄を大量に産出できる聡:またベニヤは数種類の木を重ねているので、動きにくく、安定しています。とっても便利な材料なんです。
──ん? 「動く」とは、どういうことでしょうか?
マーシャ:木は、湿気が多いと広がってくるし、乾燥した場所だと縮むんです。室外に置いたり、室内でも直射日光が当たると、割れてきます。
聡:もともと木は水を吸って生きている植物なので、切った直後はびしょびしょに濡れています。それを乾かしてから使うんですが、水が抜ける段階で縮んで、割れるんです。とくに中心部分など、縮む際に圧力がかかる場所は、割れやすい。天然木を使う場合、そういった木の特性を考慮しないで作ると、あとあと歪んだり、最悪の場合は壊れてしまうこともあるんです。
マーシャ:ベニヤは動きにくく安定した材料ですし、加工しやすいので、いろんなところに使われていますよね。色目もそろっていてキレイだし。でも、木の表情みたいなものは、あんまりないというか。
──なるほど。天然木もベニヤも、どちらもそれぞれの特性と良さがあるんですね。
聡:以前、ホテルのコンシェルジュデスクを作った時は、ベニヤを使いました。ベニヤは既成品ではなく自分たちで作ったんですけど。そういった大型プロジェクトではない、個人の方がお家で使う家具には、天然木を使います。
何十年後も、ずっと使い続けられるものを。
──オーダーメイドで家具を作るというのは、実際、どういう風に進めていくんですか?
聡:まず木を選ぶところから、お客さんと一緒に決めていくんですよ。実際に木を見て、「この木がいい」っていうのを選んでもらいます。
マーシャ:同じモンキーポッドでも、一枚一枚、違った表情がありますよね。幅や色味、木目のうねりやフシ、乾燥した時のクラック(ヒビ)の入り方など。だから実際に見てもらって、「この木、好きだな」と思ったものを選ぶのが大事なんですね。木が決まったら、どこをカットして使うのか、お客さんと相談しながら決めていきます。同じ木でも、どうカットするかで見た目がまったく変わってしまうので。
聡:そういったお客さんとのやりとりは、全部彼女(マーシャさん)が行っています。それってつまり、デザインの工程の一部なんですよね。僕らが勝手にデザインして作ったものを「はいどうぞ」って渡すんじゃなくて、お客さんの希望や好みに合ったものを提供したいので。木の良さを引き出して、あとはお客さんと決めて作るというのが、僕らのスタイルです。
マーシャ:それがオーダーメイドの良さですよね。自分好みのものを作れるのが。
──さっき、木をカットする場所で見た目が変わるというお話がありましたが、私のような素人だと、ここで切ったらこうなるという完成形がちゃんと想像できないんですよ。だから「どこで切りたい?」と聞かれても、困っちゃう。「いい感じにしてください」って思っちゃいます(笑)。
聡:たとえばこの木なんですが…。
聡:このエッジのえぐれている部分は、すごいキャラクターなんです。でも、この木の場合、形をまっすぐそろえたいと思うと、このエッジは切り落とすことになる。まっすぐそろえたい人だったらそれでもいいけど、このエッジを美しいと思う人なら、ここを残してカットします。
マーシャ:その木の特徴もご説明して、一緒に見ながら「ここキープしますか?」って、話し合っていくんです。「ほかの一枚板も見てみましょう」という風に。似たような木を使った時の写真などもお見せして、お客さんにも完成形がちゃんと見えた状態で進めていきます。そうじゃないと、「どんなものができるんだろう」って不安になっちゃいますよね。
──相談しながら一緒に決めていくのは、とっても楽しそうですね〜! オーダーメイドって、「こういうの作ってちょうだい」と一方的にオーダーするんじゃないんですね。
マーシャ:楽しいですよ。お客さんも、作る私たちも楽しいです。
聡:商品自体が高額なので、間違えたくないんですよね。出来上がったものに対してお客さんが「なんか違うな」ってなるのは絶対に嫌なので、彼女もすごく細かくやりとりをするし、僕も一生懸命作ります。もう本当に、やりすぎだって言われるぐらい、ていねいにていねいに、やります。
──「違うな」と思っても、一度切った木は、もとに戻せないですもんね。
聡:完成のビジョンをお客さんとしっかり詰めるだけでなく、それを完成させるための下準備がとても大事。ものを作る時は、最初の段階ですべての工程が見えていないと必ず失敗するんですよ。修行時代、よく親方に言われたのは「段取り八分、仕事ニ分」。8割は事前の準備で決まる。木を切る前にどこまで細かく詰められるかが、仕上がりを大きく左右するので、いつも数字を細かく出しています。
マーシャ:ここまで細かく書いてる人も、ハワイではあんまりいないですね(笑)。
聡:ハワイでは、ちゃんとトレーニングされていない人が作っていたりするんで…。木を切って組み立てるだけなら簡単だけど、そうじゃない。木目の選び方ひとつ、切り方ひとつで、強度がかなり変わってきますから。見た目優先で作ると、お客さんが使っている段階で問題が発生するし、最悪の場合は壊れて、怪我をする人が出るかもしれない。長く使うことを考えると、テクニカルな部分がとても重要なんです。
マーシャ:表面が汚れたり傷がついても、サンディングして削り、コーティングすれば、新品同様の見た目になります。ベニヤなどの合板ではそれができないんですが、一枚の木であれば、削ってもまだ木があるので。何十年後でも、そうやってメンテナンスして、長く使うことができるのも、魅力ですね。
──何十年後も使い続けられるって、素敵です。
聡:長く使ってもらえるように、ていねいに、一生懸命やっています。ひとつひとつのピースに時間をかけて取り組むぶん、お待たせしてしまうのは申し訳ないのですが…。
マーシャ:いま数カ月〜半年待ちという状態で、時にはお断りしなければならない場合もあるんですが、「サトシ・ヤマウチの家具が欲しい」と待ってくださる方がいるのは、本当にありがたいです。
聡:幸せですよね。お客さんの好みはさまざまで、要望も毎回違うので、常に新しい挑戦があって面白いですね。とっても充実しています。しばらくはこれを頑張って続けていきたいですね。そして今後、自分の工房を持てるぐらいまでいけたらいいなと思っています。その時に、一人か二人、良い人材を育てて、将来、一緒にやっていけるようなパートナーになってくれたら。まだまだ、先の話ですけどね。
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おそらく、生まれてからずっと家具に囲まれて生活してきたはずなのに、なんでこんなに何も知らないんだろう?…というほど、私にとって、おふたりのお話は驚きの連続でした。
いま、
インターネットでポチッとすれば、なんでも買えてしまう時代。
洋服でもパソコンでも、カスタムで簡単にアレンジできてしまう時代。なんだかそれが当たり前すぎて、自分が毎日触れている「モノ」が、どうやって生まれているかなんて、私は気にかけもしなくなっていました。
いま向かっているデスクは、座っている椅子は、きっと合板のベニヤ? いやもしかしたら、木ですらないかもしれない。
何時までなら翌日配達、いくら以上なら送料無料。
それがデフォルトになりつつあるいま、半年待ちの家具を、既成品の倍以上の値段を払って、買う、ということ。それはとっても贅沢で、そして圧倒的に正しいことのように思えました。「ダイニングテーブルは、家族が集まる場所。だから温もりのある自然の木が合うんです」
とは、山内聡さんの言葉。
そうか。
いつでもそこにあって、みんなで使えて。
家具は、あたたかい家庭のシンボルのよう。ごはんを食べたり、こぼしたり。
今日はこんなことがあってね、と話したり。
トランプやゲームをしたり、ときどきは宿題もしたり。子どもが大人になって、孫が生まれて、その子がまた大きくなって。
何十年のごはんと会話とあれこれが、ひとつの同じテーブルを介して行われていくこと。
その素敵さ、尊さに、もう私は、打ち震えます。そのダイニングテーブル、ください……!(涙)
今はまだ、いろんな意味で私には余裕がないけれど。
いつかきっと、山内さんご夫妻にダイニングテーブルを作ってもらいたいし、一緒に考え決めていく過程もめいっぱい楽しみたい!ということで。
心の中で勝手に、何年後かの予約オーダーを入れさせていただきました(笑)。
どうぞ、よろしくお願いいたします!写真/渡辺愛恵、マローン恵
この記事を書いた人
マローン恵(メグミ)
ワイキキ、マノア、モンサラット、マキキ、カイムキを経て現在はヌウアヌ在住。好きなものは地ビールと地コーヒーと地チョコレート(全部発酵食品!)。ハワイ島取材班としても意欲的に活動中。
Twitterアカウント:@Megumiinhawaii
サトシヤマウチ・ウッドワークス
- 住所
- 912 Puuhale Rd. Honolulu, HI 96819
- 電話番号
- 808-354-3850 (日本語OK)
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