アロハ! メグミです。
ハワイに来たことがある方なら、おそらくこの建物を一度は目にしたことがあるんじゃないでしょうか?
ホノルル・ダウンタウンに建つ「イオラニ宮殿」。
ハワイ王国時代の物語を今に伝える、重要な歴史スポットです。
ハワイ諸島にはこのイオラニ宮殿を含めて計3つの宮殿がありますが、なかでもこのイオラニ宮殿は最大規模を誇ります。ちなみにアメリカ合衆国の中で宮殿があるのは、ハワイ諸島だけなんですよ。この瀟洒な宮殿を、外から見たことがある方は多いんじゃないでしょうか。ホノルルのツアーなどでは、たいてい車の中から「あちらに見えるのがイオラニ宮殿ですよ」と教えてくれたりします。
でも、宮殿の中に入ったことがある方は、意外と少ないんじゃないでしょうか? 中に入れるのを知らない方も多い気がします。それって、とっても、もったいない〜!
イオラニ宮殿の建物の中は、本当に素晴らしいんですから!
イオラニ宮殿は、宮殿を建設したカラカウア王とカピオラニ王妃を始め、
カラカウア家のご家族が生活された場所。現在の宮殿内部は、当時の様子が再現されたミュージアムになっています。王様や王妃様、そのご家族が使った家具や調度品などがそのまま飾られているところもあって、見応えたっぷり。 諸外国からの賓客を迎えるダイニングテーブル。王様は上座ではなく中央の席に座り(上の写真でいうテーブルの左側)、外国の話や新しい情報に耳を傾けるのがお好きだったとか。
宮殿のメインホール、通称「赤の間」。写真の右手前に飾られているドレスはカピオラニ王妃が身にまとったピーコック(孔雀)のドレスを復元したもの。また、ホール奥の玉座には、実際に王様・王妃様が座った椅子が飾られています。
このように、王様たちが生活した様子をつぶさに感じ取ることができるんです。宮殿内のエレガントな装飾にもうっとりします…。
華やかなハワイ王国時代を代表する建物であるとともに、王国転覆の悲劇の舞台ともなったイオラニ宮殿。悲喜こもごもが同居するその空間に立つと、グッと胸に迫るものがあり、多くのことを考えさせられます。
また、当時のハワイ王国は日本とも国交があり、天皇陛下からの贈り物の壺があったり、写真が飾られていたりと、ハワイと日本との縁の深さを知ることができるのも、宮殿を訪れる楽しみのひとつです。
…と、まだまだ語り尽くせない魅力がもりだくさんのイオラニ宮殿なのですが、宮殿内部を訪れるには、ツアーに参加する必要があります。
イオラニ宮殿の中をめぐるツアーは、大きく分けて、次の2種類。
Iolani Palace Tour
1:セルフ・オーディオツアー
ヘッドセットを装着し、おのおの自分で宮殿内をめぐるツアー。ヘッドセットからは日本語のガイダンスを聞くことができます。
2:ドーセント・ツアー
イオラニ宮殿のドーセント(ガイド)が館内を案内してくれるツアー。基本は英語ですが、日本人ドーセントが担当する日は日本語で説明を聞くことができます。
私はどちらも参加したことがあり、それぞれの良さがあると感じたのですが、とくにドーセント・ツアーが素晴らしくて感動の連続だったんです。まさに「目からうろこが落ちる」とはこのこと!という、未知に次ぐ未知の情報に、快感すら覚えるほど。
ドーセント・ツアーのなにがすごいのかと言いますと…。
じつは私、ドーセント・ツアーには過去2回参加しているのですが、最初の参加の時にもドーセントの方の知識量や理解の深さに「すごい!」と感動しました。しかし、実際にドーセント・ツアーの真髄を感じたのは、2回めの参加の時でした。1回めと1回めで、担当してくださったドーセントさんは違う方だったのですが、なんと、
解説が、まったく違うアプローチだったんです。
イオラニ宮殿のドーセントさんは、イオラニ宮殿が独自に行っているプログラムを受講し、試験にパスした方々なのですが、それは単に詰め込んだ知識を発表するというものではなく、それぞれのドーセントさんが異なる専門分野を持った研究者とも言えるレベルの方々だということ。2人の異なるドーセントさんのツアーに参加して、それぞれの深さと凄みをはっきりと体感しました。
もちろん同じ宮殿内を巡るので、内容が重なる部分も多いのですが、それぞれの専門分野の話がとても奥深くて、ゾクゾクと鳥肌が立つほど、引き込まれてしまうんです。
そんなドーセントの一人として活躍されているのが、こちらの藤原アン小百合さんです!
藤原 アン 小百合/Sayuri Anne Fujiwara
アーミッシュキルトの盛んなアメリカ・オハイオ州の高校に留学中にアメリカン・パッチワークを習得。その後ハワイに移住し、マウイ島ハナで出会ったハワイアンキルトのベッドカバーにひと目惚れをし、ハワイアンキルトを始める。ハワイで毎年開催される「キルトハワイ」2011年グランプリ受賞。2013年11月より、イオラニ宮殿の日本語ドーセントのボランティアを務める。ハワイ州観光局主催「アロハプログラム」キュレーターとしても活躍中。
ウエブサイト「アンのハワイアンキルト」
http://www.anne-hawaiianquilt.com/
以前アロハストリートでもハワイアンキルトのコラム連載をしてくださっていたこともあり、ハワイ通の方には「キルトのアン先生」としておなじみですよね。日本やハワイでキルトレッスンや講演、ハワイアンカルチャーに関する活動をされています。
そんなアン先生のドーセント・ツアーでは、宮殿内に飾られている3つのキルトについて、とても興味深いお話を聞くことができます。
カラカウア王のベッドにかけられたキルト。オリジナルのキルトを、現代のマスターキルターが忠実に再現したレプリカなのですが、文字部分に秘密が……?
カピオラニ王妃の寝室に飾られているベッドカバー。
ハワイ王国最後の君主、リリウオカラニ女王が幽閉中に製作した、有名なクレイジーキルト。イオラニ宮殿のハイライトのひとつでもあります。
さまざまな端布が縫い込まれ、刺繍が施されています。
詳しい話を聞かずとも、見るだけでグッと胸に迫るものがありますが、アン先生の解説を聞くと、とっても考えさせられてしまいます…。詳しい解説は、ぜひ実際にアン先生のドーセント・ツアーに参加して聞いてくださいね。
またキルトだけでなく、植物の話もかなり詳しく聞くことができますよ。ハワイアンキルトには植物をモチーフにしたものが多いため、ハワイの植物はアン先生の専門分野でもあります。
こんなに素晴らしい研究の解説を、ボランティアで行っているドーセントのみなさんには、本当に頭が下がります。そう、イオラニ宮殿のドーセント活動は、ボランティアで行われているんですよ〜。高い志がなければ、できることではありません。
今回は、アン先生に、イオラニ宮殿でのドーセントについて、お話をお聞きしました!
ハワイアンキルターである私が、ハワイにギブバックできること。
──なぜイオラニ宮殿のドーセントを始められたのでしょうか?
アン先生:私は89年からハワイに住み、ハワイアンキルトに携わっているのですが、もっと本格的にハワイの歴史について学びたいと思ったことがきっかけでした。ビショップ博物館やクイーンエマ・サマーパレスでもドーセントの活動はありますが、なぜイオラニ宮殿だったのかは、自分でもわかりません。なにか引き寄せられるものがあったのかもしれませんね。
──アン先生といえば、ハワイアンキルトの活動が有名ですよね。
アン先生:もともとアメリカ本土の高校と大学に行っていて、そこでパッチワーク・キルトを学んでいました。ハワイに来たのは1989年で、その頃もパッチワークをやっていたのですが、マウイ島のハナに行ったときに、ホテルのお部屋に素晴らしいハワイアンキルトのベッドカバーが飾ってあったんです。それが私とハワイアンキルトの最初の出会いでした。
ホノルルで、さまざまなところに出向いてハワイアンキルトを習ったのですが、いちばん興味深かったのはマカハのアンティたちに教えてもらったこと。口伝えでキルトのことや歴史について教えてもらいました。
キルトはずっと趣味で行っていたのですが、アメリカで9.11の同時多発テロが起きた時に「自分にも何かできることはないか」と思い、犠牲者とその家族への追悼キルト「千羽鶴 フレンドシップキルト」を全国のキルターとともに完成させ、9.11メモリアルに寄贈しました。そこからキルトの活動を本格的にスタートしました。
ハワイにはキルトを行っているアンティがたくさんいるのですが、日本語を話せるアンティがいないんです。アンティたちが伝えたいハワイのことを、日本の人たちになかなか分かってもらえないというジレンマがありました。私も最初はキルトのデモンストレーションなどで通訳をしていたのですが、次第に自分でも教えるようになっていきました。
──イオラニ宮殿のドーセントになるためには、実際にどんな講習があるのですか?
アン先生:「ロイヤルクラス」という、ロイヤルファミリー(ハワイの王家一族)について学ぶクラスなど、座学が約5カ月あります(有料)。その後に研修があり、イオラニ宮殿で40時間のガーディアン(監視員)、そして試験を受けて合格すれば、イオラニ宮殿のドーセントとして活動することができます。
難しいのは、資料はもちろん座学のクラスや研修はすべて英語なんですが、実際のツアーでは日本語に訳して説明しなければならないんですね。たとえば英語だとクイーン・カピオラニ、クイーン・リリウオカラニですが、日本語ではカピオラニ王妃、リリウオカラニ女王になります。ですから英語で習った後に、日本人ドーセントの先輩に日本語をチェックしていただくんです。イオラニ宮殿のドーセントは、新たに学ぶ側だけでなく、すでに活動している先輩方、みなさんの協力があって成り立っているんですね。
──しかもボランティアで行われているという点も驚きでした。
アン先生:私はハワイアンキルトというハワイの文化でお仕事をさせていただいているので、ハワイに対してなにか「ギブバック」ができないかと思いました。そして学ぶにつれ、正確な知識を日本のみなさんにちゃんとお伝えしたいと強く思うようになりました。
イオラニ宮殿のドーセントはボランティアなので、英語のドーセントはみんなリタイア後の方たちですね。外国語では日本人だけですが、みんな「やりがい」を感じてドーセントを行っている人がほとんどだと思います。約45分のツアーの中で、ひとつでも参加した方の心に残るものがあったら、非常にうれしいですね。
──ドーセントの方によって専門分野があるのも、すごいと思います。
アン先生:そうですね。なにせツアーが45分しかないので、全てを説明できないのですが、それぞれのドーセントに得意分野があるのは面白いですよね。私だったら、キルトや植物の話はかなり詳しい解説になります。
イオラニ宮殿には日本との歴史的関わりを表す部分があり、日本人にとっては入りやすい部分ですよね。ですから英語ツアーではあまり解説されないかもしれませんが、日本語ドーセントは大広間の明治天皇からの贈り物の壺や、カラカウア王の執務室にある写真について、必ずお話します。だいたいそれで終わるんですが、私は音楽の間の奥にある「ついたて」の送り主ロバート・アーウィン氏についてもお話します。
このアーウィンさんという方、奥様が日本人ということもあって、私はとても興味があったんですね。調べてみると、彼の別荘が日本の伊香保にあったそうなんです。現在は博物館になっています。伊香保はいまハワイ島ヒロと姉妹都市で、ハワイアンフェスティバルが行われたりと、ハワイに親しみのある土地なのですが、それはハワイ移民の歴史やアーウィンさんの功績があってのこと。歴史はつながっているんですね。
じつは以前、日本でアーウィンさんのお孫さんが書かれた本を見つけて、それがとても興味深かったんです。好きだからこそ詳しくなるし、そこからどんどん次の物語へとつながっていく…それが歴史を研究するうえでの楽しさですね。
音楽の間。部屋の奥、窓と窓の間にあるついたては、アーウィン氏からの贈り物。
──この記事を読んで、イオラニ宮殿のツアーに興味を持った方に、アドバイスをお願いします。
アン先生:アメリカに3つしかない宮殿のうち、いちばん大きな宮殿なので、ぜひ多くの方に足を運んで見ていただきたいですね。ドーセントツアーは定員があり、空きがあれば当日でも参加できますが、できれば事前予約したほうが確実です。ウエブや電話で予約ができますが、英語しかないので、英語が難しい方はホテルのコンシェルジュデスクなどに頼んでみてください。
イオラニ宮殿は、ハワイ近代化の象徴ともいえる建物ですが、ハワイの近代化と日本の明治維新はほぼ同時期に起こっていて、つながりがあるんです。宮殿ではそんな歴史のリンクを感じることもできるので、日本の方には興味を持ちやすいポイントだと思います。
「歴史に詳しくないから難しいんじゃないか」と思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。よく知らない人にも楽しく、詳しい方にはさらに学びがある場所。もし気になる点があれば、ドーセントにどんどん質問してくださってもいいですよ。欧米からの旅行者はみんな遠慮なく質問しますから(笑)。ぜひ、多くの方に参加していただけたらうれしいです。
──アン先生、どうもありがとうございました!
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アン先生のドーセント・ツアーは火曜日に行われています。
また、私が敬愛する歴史家でありライターの森出じゅんさんも、ドーセントとして水曜日を担当されているんですよ。なんて豪華なんだ…!ちなみに、ドーセント・ツアー参加者のみ限定で、1階大広間にあるコアウッドでできた美しい大階段を上ることができるようになりました。これまた豪華! 私もまた参加して、大階段を自分の足で上がってみたいと思います。
教科書やガイドブックには載っていない、リアルな歴史に触れる45分間のジャーニーを、ぜひみなさんも体験してみてくださいね!
イオラニ宮殿 日本語ドーセント・ツアー
開催日:月火水金 11:30〜(約45分)
料金:大人$27、5〜12歳$6※ツアー参加は事前予約がおすすめ。開催日は変更されることもあるので、事前に確認を。
※4歳以下の場合、小さな子供は前側にホルダーなどで固定して抱っこするか、宮殿貸し出しのベビーカーに乗せて入場が可能です(持参のベビーカーの持ち込みは禁止)。また小さいお子さんで、ほかの来館者の妨げになる行為をした場合、退場を命じられる場合があります。※セルフ音声ツアーは毎日開催。大人$20、5〜12歳$6
この記事を書いた人
マローン恵(メグミ)
ワイキキ、マノア、モンサラット、マキキ、カイムキを経て現在はヌウアヌ在住。好きなものは地ビールと地コーヒーと地チョコレート(全部発酵食品!)。ハワイ島取材班としても意欲的に活動中。
Twitterアカウント:@Megumiinhawaii
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