メネフネ伝説の里、カウアイ島ハエナ
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第12回。カウアイ島ハエナの町の「メネフネ伝説」にまつわるお話です。
公開日:2019.10.17
古来、女酋長が統治した
カウアイ島の陸の孤島、ハエナALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。
この夏、久しぶりにカウアイ島を訪れました。緑濃いカウアイ島は「庭園の島」との愛称で親しまれるほか、ハワイ文化好きの皆さんには、ハワイの小人族メネフネ伝説など、数々の神話・伝説の残る島との印象も強いですね。
しかも今回は、はるばるノースショアはハエナの町まで遠征してきました! ノースショアは昨年4月の洪水で甚大な被害を受け、しばらく車での出入りが制限されていましたが、道がようやくオープン。今回は、カウアイ島でも指折りの神話の里と私が呼ぶ、ハエナに焦点を当ててご案内しましょう。
ハエナには、空港のあるリフエから車で約1時間半。ノースショア随一の観光地、かつタロイモの生産地でもあるハナレイを通り過ぎ、さらに30分ほど行くとようやくハエナに到着します。ショップも目白押しのハナレイと違い、ハエナは海と渓谷に挟まれたのどかな田舎町。
ハナレイのタロイモ畑。ハナレイからハエナは車で約30分
ハエナと聞いてもピンと来ない方がいるかもしれませんが、「メネフネが小鬼を退治したマニニホロ洞窟や、名画『南太平洋』で有名なバリハイの山のあるところ」と言えば、思い当たる方も多いかもしれません。
カウアイ島のなかでも陸の孤島というか、大きな町から離れたハエナは、古来、政治的にも独立を保った土地でした。通常は島の王が変われば各地を統治する酋長も変わるなか、ハエナでは一度酋長の座につけば、王の意向に関わりなく死ぬまで地位を保っていたそうです。しかもハエナは、伝統的に女酋長が統治する土地だったとか。
ずいぶん古くから人々がこの地で暮らし、たとえばハエナのリマフリ渓谷には、1500年以上も前から人が住んでいたことがわかっています。ちなみにこのリマフリ渓谷の一角にあるのが、前述のバリハイの山。ハワイ語ではマカナの山と呼ばれ、一帯のランドマークともなっています。
-
マカナの山近くにある植物園、リマフリガーデンでは渓谷に昔あった村落を再現。
村を巡りながら、さまざまな植物を見ることができる。このマカナ山は昔、オーアヒ(ハワイ語で火矢、花火)という儀式の場として、名を轟かせていました。オーアヒは、大酋長の訪問など重要な機会に、夜、山頂から海に向かって松明を投げこむ神聖な儀式。マカナから海までは、少なくとも1.5キロはあります。もちろん屈強なハワイアンといえども、1、2キロ先まで松明を投げるのは無理というもの。
ですが松明の材料となるハウの木はあらかじめ皮をむいて乾かされ、ごく軽くなっていました。風向きなどの条件の合った月のない夜を選び、松明をうまく投げると、松明は風にのって海へと運ばれていったそうです。
松明が空を飛ぶ間、炎はどんどん輝きを増して火の軌跡を夜空に描き、人々は今でいう花火見物のような感覚で、火投げの儀式を楽しんだものでした。一方、海上にはたくさんのカヌーが待機していて、男たちが松明を受け止めようと待ち構えていたそうです。次々に山頂から放たれる松明の儀式、きっと壮観だったでしょうね!
ハエナのランドマーク、バリハイ(マカナ)は、海に近いてっぺんの尖った山だ
火投げの儀式にちなんだ
メネフネ伝説カウアイ島といえばメネフネ伝説の本拠地ですが、このオーアヒの儀式にもメネフネに関わる伝説が残っています。ある夜、ほかの地から酋長が訪問するというので、火投げの儀式が行われることになったとか。松明を投げるのは大人の男の役目ですが、ノウという少年が自分も松明を投げたいと懇願。
大人に軽くあしらわれたノウは諦めきれず、山を登ることにしました。こっそり、火投げの儀式に参加しようと思ったのです。やっと山頂近くまで登ると、石に押しつぶされて死にそうになっているメネフネを見つけたノウ。優しくメネフネを助けてやり、感謝したメネフネは、ノウの火投げを助けてくれる約束をしました。
山頂でもノウは男たちに、「もし自分の松明が一番遠くまで飛ばなければ、死刑になってもいい!」と必死で懇願。一度だけ、チャンスをもらえることになりました。ノウは真っ暗な海に向け全力で松明を投げたのですが、松明は風に乗らず山の麓へ。
とその時! 山の頂上から強風が吹き、ノウの松明を再び空高く吹きあげました。松明はそのまま風に乗り、はるか遠くの海に着水。そうです。ノウに約束した通り、メネフネは精いっぱい頬を膨らませて「フウ~ッ!」と息を吹きかけ、ノウを助けてくれたのでした。
メネフネが小鬼を退治した
マニニホロ洞窟も残るちなみにこのハエナの海近くには、前述のマニニホロ洞窟がぱっくり口を開けています。伝説によれば大昔、メネフネ族はマニニホロ洞窟前の海に集合し、ハワイを出ていったとか。メネフネ族は南方の島からハワイに移ったとされますが、ハワイアンとの間に混血が進んだのを嫌ったメネフネの王が、ある時、ハワイを去る決意をしたのです。
その旅路のため、王付きの漁師はせっせと漁に出て魚を集めましたが、朝になるといつも、なぜか魚が消えていました。エエパ族という小鬼たちが、夜間、こっそり魚を盗んでいたからです。そこで漁師は小鬼たちの寝ぐらの穴を見つけ、ずんずん掘り進んで全ての小鬼を退治。
メネフネ伝説が残るマニニホロ洞窟
洞窟の中から見た光景
その穴こそが、あの、マニニホロ洞窟だとか。ちなみにマニニホロというのは、小鬼をやっつけたメネフネの漁師の名前だそうです。
以上、今回は少ししかご紹介できませんでしたが、ハエナ周辺にはほかにも神話・伝説がいっぱい! 機会があれば、またご紹介させてくださいね。ちょっと遠いですが、このハエナの町、ハナレイと合わせてぜひ訪れてみてくださいませ。
森出じゅんさんの著書「ハワイの不思議なお話〜ミステリアスハワイ」。
歴史や神話、伝承、スピリチュアルな世界まで、ハワイの知られざる一面を、独自の調査・研究に基づき、じゅんさんならではの視点で紹介した一冊です。読めば、ハワイに描くイメージが変わるかも? ディープなハワイを知りたい方は、必読ですよ〜!
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
- この記事をあとでまた
みたい場合は、
マイページにクリップ!