オアフ島カネオヘ湾周辺の神話&伝説
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第15回。オアフ島のカネオヘ湾周辺にまつわるお話です。
公開日:2020.04.27
オアフ島指折りの神話の宝庫、
風光明媚なカネオヘ湾ALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。このところオアフ島外の話題が続いていましたが、今回は久々にオアフ島がテーマ。エメラルドグリーンの海が印象的なカネオヘ湾周辺の、神話&伝説についてお届けしましょう。
ワイキキから車で約30分。雄大なコオラウ山脈の麓に広がるオアフ島東部の街、カネオヘは雨量が多く水が豊富なため、古くからハワイアンの村落が広がっていた歴史ある地域です。その分、一帯にまつわる神話も多々。神秘が香る地域といえるでしょう。
なかでも注目していただきたいのが、モカプ半島。カネオヘ&カイルア周辺の海辺から見渡せるこの半島は、一見、亀にも似た形で、タートルアイランドとの別名でも知られています。下の写真はカイルアビーチ側から見たモカプ半島。島のように見えますが、半島ですので念のため。
このモカプ半島は、実はハワイアンにとって大変な聖地なのです。遥かなる昔、カネ、クー、ロノ、カナロアというハワイ四大神が初のハワイアンを創造したのが、モカプ半島のモロラニの丘とか。モロラニの丘で採れる赤土でカネ神が人形を創り、息を吹き込むと、人形に命が灯ってムクムクと起き上がったそうです。それこそが、この世に初めて出現したハワイアン。つまりモカプ半島は、ハワイアン発祥の地なのですね。しかもモカプ半島は、歴史のうえで大変な聖地でもあります。カメハメハ大王がオアフ島を征服した1795年以降、大王&側近の寄り合い処として使われていたのがここ。そのためこの地は、「立ち入り禁止の地」を意味するモクカプとの地名で知られるようになりました(ハワイ語でモクは島や半島、カプはタブー)。それが訛ってモカプと呼ばれるようになったのですね。
カネオヘ側から見たモカプ半島 ところが…。今やモカプ半島は、違った意味でタブーの地になっています。半島の先にはアメリカ海兵隊の基地があり、一般人は立ち入り禁止。ハワイアンの大切な聖地が軍事基地になっているとは…何とも皮肉な話ではないでしょうか?
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ハワイアンの魂が
天国と地獄に分けられる地次の注目スポットは、ヘエイア州立公園周辺。州立公園はケアロヒ岬という高台に広がっており、この岬は昔、ハワイアンの魂が集まり、天国行きか地獄行きかが決められる最後の審判の地と信じられていました。ケアロヒ岬から海に向かって左側はヘエイアケア(ハワイ語で「白いヘエイア」)と呼ばれ、こちらには善人の魂が集まり、天国に送られたとか。そして岬の右側は、「黒のヘエイア」を意味するヘエイアウリというエリア。こちらには悪人の魂が集められ、地獄に送られる…と信じられていました。
海に突き出した緑のケアロヒ岬。左側にはヨットハーバーが、右側には養殖池が見える ちなみに天国側のヘエイアケアには、カネオヘ湾周遊の遊覧船や釣り船が発着するヘエイアケア・ヨットハーバーがあります。一帯の海はカネオヘ湾のなかでも浅瀬で、沖には複数のサンドバー(引き潮になると海上に姿を見せる小さな砂地)が。ここでは過去、いくつも日本のCMが撮影されていますので、その美景は日本在住の方々にもお馴染みかもしれません。
・一方、「黒のヘエイア」であるヘエイアウリ側には、大きなヘエイア養殖池が。600年~800年前、カネオヘ湾の一部を石壁で囲んで造られた大きな養殖池で、囲いの長さは、なんと2.1キロ以上! 近年はボランティア団体による石壁の復興作業が進み、市場への出荷を目指してさまざまな魚が実験的に育てられています。つまり現役の養殖池なのですね。
そしてハワイの養殖池に付きものの伝説といえば…大とかげ、モオの伝説です。モオは体長5~10メートルほどもある大とかげ。昔のハワイでは、滝壺や池にはモオが住むと信じられ、人々を襲う邪悪なモオもいる反面、滝や養殖池の守り神として崇められるモオもたくさん知られていました。ヘエイア養殖池にも、マヘアヌというモオが住んでいるとか。マヘアヌはカエルやウツボにも自由に変化(へんげ)でき、今なお養殖池を守っているそうです。
女神ヒナが月に登った
マエリエリの丘さらにヨットハーバーの山側にも、有名な神話の舞台、マエリエリの丘がたたずんでいます。パッと見たところ何の変哲もない小さな丘なのですが、月の女神ヒナにちなんだ、以下の神話の舞台として知られています。
ヘエイアヨットハーバーから見たマエリエリの丘 昔々の大昔。夫の暴言と暴力に苦しんでいた可憐なヒナは、ある日、空にかかった大きな虹を見て決心。「そうだ、虹を伝って太陽まで逃げることにしよう。こんなひどい夫とは、もう暮らせないわ」。そこでせっせと虹を登り始めましたが、高く登るにつれてどんどん暑くなり、途中で太陽に移り住むことを断念しました。
・しばらく経った夜、今度は夜の虹、ムーンボウがヒナの前に出現。「では月に住んだらどうかしら」。そう考えたヒナはマエリエリの丘の頂上から虹を登り始め、今度は無事、月に到着することができました。この時、ヒナの夫もマエリエリの丘に駆けつけヒナを追いかけましたが、ヒナを捕まえることはできなかったそうです。不幸な結婚から逃れたヒナは、今では月の女神として幸せに暮らしているということです。
以上、カネオヘ湾周辺の神話・伝説、ザッとご紹介しました。カネオヘ湾といえば、シュノーケルやカヤッキングなどオーシャンスポーツのメッカとして知られますが、知る人ぞ知る神話の宝庫なのです。コロナ禍が過ぎ去り、自由に日本―ハワイ間の行き来ができるようになった際には、ぜひ神々の息吹を感じに訪れてみてくださいね。
さて、最後に一つご報告があります!2月27日に発売された新刊「やさしくひも解くハワイ神話」が、嬉しいことに重版になりました!発売から2週間足らずで重版が決まり、驚きましたが、これも全て皆さんのサポートのお陰です。心から御礼申し上げます。
すでに第2刷ができ上がり、品切れになっていた店舗やオンライン書店に入っていますので、この機会にぜひ、お手に取ってみてくださいね。今日ご紹介した四大神やモオの神話も入っておりますー。どうぞよろしくお願い致します。
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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