マナが漂うオアフ島随一の聖地「クアロア」
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第16回。今回はオアフ島北東部のクアロア周辺にまつわるお話です。
公開日:2020.07.01
偉大なマナの漂う地クアロアは、
多彩な神話・伝説の舞台ALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム、今回のテーマはオアフ島北東部のクアロア。乗馬などさまざまなアクティビティが体験できるクアロアランチでお馴染みのこの地の、知られざる歴史や神話をお届けしましょう。
今でこそ海辺ののどかな町として知られますが、クアロアは昔、偉大なマナ(霊気、霊力)の漂う土地としてハワイ中に知られていました。古来、オアフ島随一の聖地とみなされ、そのため広大なクアロアの地全体が、逃げこめば罪人も命が許されるという聖域、プウホヌアとして神聖視されていたほどです。
クアロアビーチパーク
・
・そんな背景から、クアロアは神話&伝説の宝庫でもあります。まずクアロア背後のコオラウ山脈には、空の神ワケア、ハウメアなど神々が住まうとか。その最高峰はカネホアラニと呼ばれ、四大神の一人カネにちなんだ物語が伝わっています。 またクアロアビーチパークの沖に浮かぶ小島、モコリイ島(通称チャイナマンズハット)は、女神ヒイアカに退治された大とかげの尻尾が島になったものだそうです。一帯を恐怖に陥れていた大とかげのモコリイはある日、相手が神通力を持つ女神だとは露知らず、ヒイアカに襲いかかりました。ところがヒイアカは、あっという間にモコリイを退治。
モコリイ島(通称チャイナマンズハット)には大トカゲの伝説が そしてモコリイの尾を切り落として海に投げこむと、巨大な尾は海に刺さって島になりました。それが今、クアロアビーチ沖に浮かぶモコリイ島です。一方、モコリイの胴体は、コオラウ山脈と海の間に横たえられ、道になりました。
・
・ほかにもイノシシの化身であるカマプアアや鮫の神の伝説、メネフネが造った巨大な養殖池の話など、クアロアを彩る神話・伝説は実に多彩です。四大神の一人、平和と豊穣の神ロノにも縁が深く、かつてロノを祀る大きな神殿がクアロアにあったことがわかっています。
クアロアランチの歴史センターには、イノシシの化身、カマプアアの像が展示されている
・
・柵の向こう側の養殖池は、小人族メネフネが造ったものとか
王族が暮らした特別な地。
一帯からは古代の遺物もザクザククアロアは、かつて王族の居住地でもありました。王族の子供たちは、幼少時からクアロアに集められ、ここで武術や帝王学を授けられたそうです。クアロアの海辺には昔、王族居住地であることを示す旗がはためき、クアロア沖を通るカヌーは、他島からのカヌーであっても必ず帆を降ろして敬意を示したものでした。一説によると若き日のカメハメハ大王も、帆を降ろしてクアロア沖を通ったそうです。
王族居住地だったことから、一帯からは、犬の歯のネックレスや石器など膨大な数の遺物も出土しています。クアロアビーチパークから見つかったものだけでも、なんと1万6000点以上!またクアロア付近のコオラウ山脈には王族が埋葬された洞窟がたくさんあるそうで、ある洞窟からは遺骨とともに丸ごとのカヌーなど、副葬品が見つかっています。このエリアにはまだまだ未発見の洞窟が多い、と考古学者は考えており、今だ400体前後の王族が眠っていると推定されています。
クアロアランチの背後にはコオラウ山脈が迫る このような背景から、1974年、クアロアのアフプアア(古代の地域のくくり。生活共同体でもありました)全体が米国の史跡として認定されています。地域全体が古代の避難所だったことと考えあわせ、クアロアがどんなに特別な土地だったか、よくわかりますよね。
・
・ところが。時の流れとともに、クアロアの重要性は忘れ去られてしまったのでしょうか。ハワイ王国時代の1850年、カメハメハ3世は、宣教師にして医師、そして自身の相談役でもあったジェラルド・ジャッドに、クアロアの土地622エーカーを$1300で売却してしまったのです。ジャッド医師の子孫により一族の所有地は年々、拡大され、今ではクアロアランチとして知られています。
クアロアランチから海を望んだところ …皮肉なのは、クアロアが牧場として時を刻んできたお陰で土地開発もされず、昔のままの自然美を残しているという事実でしょう。もしもクアロアが徹底的に開発され、住宅やホテル、ショッピングセンターなどになっていたら。それこそ悲しいことだったと思います。
・
・以上のように、建築物としての史跡こそ残りませんが、古来、オアフ島随一の聖地として特別視されてきたクアロア。クアロアランチでアクティビティを楽しんだり、そのすぐ近くのクアロアビーチパークでロコに混じってのんびり過ごしながら、一帯に漂う聖なるマナをぜひ感じてみてください。
「やさしくひも解くハワイ神話」電子書籍登場のお知らせ
さて、最後に1つお知らせです!新刊「やさしくひも解くハワイ神話」が、このたび電子書籍としても登場しました。紙版と合わせ、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
- この記事をあとでまた
みたい場合は、
マイページにクリップ!