マウイ島指折りの景勝地 イアオ渓谷の過去
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第20回。今回は、マウイ島にある島指折りの景勝地、イアオ渓谷に関するお話です。
公開日:2021.03.02
四大神カナロアや
半神マウイの神話も残るALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。この連載も、今回でついに20回目を迎えます! ついこの間始まったかと思えば…月日の経つのは早いものですね。神話、歴史とつれづれなるままに各地の逸話を書かせていただきましたが、ご愛読くださった皆さまに深く御礼を申し上げます。
さて、20回目のくぎりとなる今回は、私が執筆させていただき、昨年末に公開になったハワイ州観光局の「ラハイナ版歴史ガイド」を記念して、初めてマウイ島をテーマにお届けします。島指折りの景勝地、イアオ渓谷についてお話ししましょう。
空港があるカフルイの隣、ワイルクの町にあるイアオ渓谷は、その雄大な景観から、「太平洋のヨセミテ」との異名で知られています。緑深い渓谷の底にあたる部分が州立公園として整備されており、気軽にハイキングも楽しめるのが魅力。それでも公園から見上げる周辺の山々は幾重にも連なり、自然の深さをひしひしと感じさせてくれます。
なかでも緑の渓谷のシンボルとして知られるのが、イアオ・ニードルと呼ばれる丘。高さは360メートルとそれほどでもありませんが、まるで針のように細く高くそびえるため、この名があります。大昔は戦時中の見張り台としても使われたほか、神話の舞台としても知られています。
Photo courtesy of Hawaii Tourism Authority(HTA)/Tor Johnson
まずこの丘は、半神半人マウイの娘を誘惑した若者のなれの果て、という伝説があります。2人の恋に怒ったマウイが、若者を岩に変えてしまったとか。また、この丘は海の神カナロアの身体の一部との伝説も。…こういった伝説から、イアオ・ニードルを見上げながら昔のハワイアンが想像をあれこれふくらませた様子が、偲ばれますね。
渓谷奥の洞窟には
数百人のマウイ王族が眠る?一帯はまた、歴史の上でも大変重要な地域でした。約1000年前からハワイアンの集落が作られ、王族も好んで暮らしたのがこの地。そんな背景から、緑深い渓谷のどこかに、数世紀にもわたってマウイの王族の遺骨を埋葬してきた洞窟があるという、驚きの説があります。それは噂の範疇を超え、多くの文献に詳細に残されている話なのです。
ΩPhoto courtesy of Hawaii Tourism Authority(HTA)/Tor Johnson)
・この渓谷のどこかに聖なる洞窟がある? たとえば18世紀の歴史家カマカウによると、14世紀以降、数百人の王族がここに埋葬されたそうで、最後に埋葬されたのは酋長カラニクイホノイカモク。時は1736年だったそうです。洞窟には2つの入口があり、1つが崖の中腹、もう1つが水面下とか。古来、遺骨を神聖視してきたハワイアン。特に王族の遺骨は敵の手から守るため、人目につかない場所に隠すのが常だったので、このような場所が埋葬所として選ばれたのですね。ハワイ王国7代目のカラカウア王も、その洞窟を探そうと渓谷に捜索隊を出したそうですが、見つけることはできませんでした。
・マウイ島王族の拠点だったイアオ渓谷は、たくさんの戦いの舞台でもあります。たとえばカメハメハ大王がマウイ島を征服した際の、決戦場でもありました。時は1790年。ハワイ島から押し寄せたカメハメハ大王のカヌー軍団は、カフルイ湾沿いの海岸に着岸。イアオ渓谷でマウイ軍と衝突しました。激しい戦いは2日間にわたり、渓谷には槍で打ち合う音、銃や大砲の爆音、戦士の叫び声がこだましたと伝えられています。
戦いでは両軍から多数の死者が出、渓谷を貫くイアオ河が遺体で埋まったため、河の流れが逆流したという嘘のような話も。ハワイ史上指折りの激戦だったこの戦いは、「河を塞き止めた戦い(ケパニヴァイの戦い)」として、後世に知られています。何となく…日暮れ後は訪れない方がいい場所のような気がしますね。
このようにイアオ渓谷は、マウイ島の複雑な過去が絡み合う、文化的、歴史的に重要なスポット。州立公園内には1キロにわたる舗道があり、手軽に渓谷の自然を楽しむことができるのも嬉しいところです。イアオ・ニードルに設けられた展望台へは、133階段をのぼって約20分。ぜひウォーキングシューズで挑戦してみてください。また公園の一角にはハワイの植物を集めたガーデンもあり、気軽にバナナやレッドジンジャーの花々、タロイモなどが見られます。
公園はパンデミック下、しばらく閉鎖されていましたが、現在は再オープン。マウイ島入りが実現した暁きには、ぜひ出かけてみてくださいね。その際は、ハワイ州観光局制作の「ラハイナヒストリックガイド」のチェックもお忘れなく! 『車で行こう! マウイ島の見所6選』のセクションで、イアオ渓谷はじめラハイナ外のおすすめスポットにも触れております。
さて、最後に2つお知らせがあります。まず、上記のガイドブックをテーマにしたハワイ州観光局のオンラインセミナーが、3月19日に開催されます。観光局主宰のハワイスペシャリスト検定の合格者が対象ですが、初級検定は毎日実施していますので、まだまだ間に合います! ハワイ好きの皆さんには強力におすすめのこの検定、初級受験は無料。もちろん、セミナーも無料ですので、この機会に受けてみられてはいかがでしょうか?
もう一つは、ハワイ文化を楽しく学べる新アプリ「フラアップス」のお知らせです。主催は、横浜や名古屋、ハワイでさまざまなフラ関連イベントを開催してきたカフラホア事務局。ハワイの叡智がたっぷり詰まったフラアップス、私も神話や歴史のお話など、あれこれ書かせていただいています。フラダンサーはもちろん、ハワイ好き、神話好き、歴史好きの皆さんにもおすすめですよー。
近日中に公開予定なので、以下のリンクからチェックしてみてくださいね。
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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