19世紀の歴史秘話の舞台、 緑の公園トーマススクエア
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第24回。今回は、オアフ島ダウンタウン近くにある公園「トーマススクエア」に関するお話です。
公開日:2021.10.28
ハワイ王国の危機に絡む
歴史的事件ゆかりの地ALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、ホノルルのダウンタウン近くにある公園、トーマススクエアです。バニヤンの大樹と噴水が印象的な実に美しい公園ですが、その造園を手がけたのは、カイウラニ王女の父であるスコットランド人のアーチボールド・クレッグホーン。クレッグホーンは造園家だった父と同様、造園の才があり、あのカピオラニ公園を手がけたのもクレッグホーンでした。
とはいえトーマススクエアは、その美しさだけではなく、歴史的な重要性でも広く知られる公園です。カメハメハ3世の治世、王国存亡の危機があり、その事件にちなんだ歴史秘話にまつわる場所がここ。以下、詳しく紹介していきましょう。
バニヤンの大樹はワイキキにあったカイウラニ王女の邸宅から枝分けされたもの
・時は1843年のこと。当時のハワイは多くの国々と国交を結ぶ立憲君主国でしたが、在ホノルルのイギリス総領事の策略により、イギリスによって5カ月間、占拠されるという大事件が起きました。悪名高きイギリス総領事のリチャード・チャールトンが、本国に宛て「土地をハワイアンに奪われた」、「イギリス人がハワイで不当な扱いを受けている」といった根拠のない報告をしたためです。 実はチャールトンは自分の絡んだ土地紛争に負けたため、本国に泣きついたというのが事の真相。所有権のない自宅周辺の土地を自分のものと主張し、それが退けられると、上記のような一方的な申し立てをしたのです。ですがイギリス海軍は、それを受けてポーレット調査官をホノルルに派遣。ポーレットはカメハメハ3世に即時の面談を強要する手紙を送り、武力による脅しを示唆したのでした。
公園中央には噴水もある
結局、カメハメハ3世と面談した後もポーレットは武力を背景にハワイ王国を不法に占拠し、ハワイをイギリスの領土とすることを宣言。1843年2月、ハワイ王国の国旗が降ろされ、ハワイ中にユニオンジャックがはためいたのです。
カメハメハ3世臨席のもと
行われた式典の顛末その後、イギリスのビクトリア女王に宛ててカメハメハ3世が異議申し立てをした結果、今度はポーレットの上官にあたるリチャード・トーマス海軍提督が、ホノルルにやって来ました。トーマス提督は真に誠実な軍人でした。カメハメハ3世と面談し、改めて事実関係を調べた結果、ハワイが不法に占領されたことを宣言。カメハメハ3世に主権を返したというのが事件のあらましです。
カメハメハ3世(Photo Courtesy of Hawaii State Archives)
・そして1843月7月31日、主権回復を祝う式典が華々しく行われたのが、現在、トーマススクエアとして知られる土地(当時、そこにはクラオカフアという砦がありました)。カメハメハ3世やトーマス提督が出席のもと、祝賀式典ではイギリスのユニオンジャックが降ろされ、ハワイ王国の国旗が5カ月ぶりに掲げられたのです。式典には1万人近くの市民が集まり、ハワイ王国の復活を喜んだとか。同地は2年後、カメハメハ3世の意向を受けてトーマススクエアと命名され、今に至っています。 …もしも再調査のためホノルルに派遣されたトーマス提督が、先任のポーレットと同様、不誠実な人間だったなら。ハワイはそのまま、イギリス領になっていたでしょう。当然ながらカメハメハ3世はトーマス提督に深く感謝し、その肖像画を所望。その肖像画は、今もイオラニ宮殿の「正餐の間」に飾られています。
事件から175年後、
史跡としての装いが完成さて話は現代に戻りますが、2018年7月31日のこと。上記の歴史的な日からちょうど175周年に当たるこの日、トーマススクエアに、公園ゆかりのカメハメハ3世の銅像が建立されました。銅像の近くには、ハワイ王国&州のモットーである「UA MAU KE EA O KA AINA I KA PONO」というハワイ語を刻んだ記念碑や、国旗のスタンドもお目見え。ホノルル市長出席のもと、賑やかな式典が行われたのは記憶に新しいところです。
ちなみにこのハワイ語のモットーは、「土地の統治権は正義によって守られる」との意味。元々はハワイ王国のモットーでしたが、そのままハワイ州に引き継がれたという経緯があります。そしてモットーが生まれた背景にあるのが、実は前述の大事件。王国の主権回復を祝う演説のなかでカメハメハ3世が口にしたのが、UA MAU…の一文だったのでした(もっとも演説はトーマススクエアではなく、ダウンタウンのカワイアハオ教会での式典でなされたものですが…)。
なおトーマススクエアでは昨春から大規模な改装工事が始まり、長い間、敷地の半分以上が目隠しされていましたが、その工事がようやく終了。囲いが外され、美しく整備された公園が披露されたのは、つい最近のことです。ぜひ化粧直しを終えたトーマススクエアを、訪れてみてくださいね。公園の北側の向かいにはホノルル美術館、南側の向かいにはコンサート会場として名高いニールブレイズデルセンターもありますので、これらの施設と一緒に訪れるのがオススメです!
最後に。前回お話ししたオンラインセミナーですが、日時など詳細が決まり次第、ブログ&アロハストリートでお知らせしますので、少々お待ちくださいね。ブログのリンクは、以下のプロフィールを参照ください。
この夏に出たハワイ神話本も、昨年の書籍と合わせ、どうぞよろしくお願いします!
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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