カメハメハ大王も住んだワイキキ・ヘルモアの秘話
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第26回。今回は、ワイキキの真ん中にある神話&歴史の舞台であるヘルモアに関するお話です。
公開日:2022.02.25
ワイキキの真ん中にある
神話&歴史の舞台ALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、ワイキキの中心に位置するヘルモア。15世紀からオアフ島の首都が置かれた歴史深いワイキキでも、特に王族にちなんだディープな背景を持つのがこのエリアです。
…と、ここまでを読んで「ヘルモアってどこ? 聞いたことがない」と思った方、多いかもしれませんね。実はヘルモアは、ワイキキを訪れる旅行者にはごくお馴染みのエリアなのです。ロイヤル・ハワイアン・センターやロイヤル・ハワイアンホテル、シェラトン・ワイキキを含む海辺の土地が、かつてヘルモアと呼ばれた地域。今は旅行客で賑わっていますが、昔は王家の椰子園が広がり、オアフ島を治める大酋長やかのカメハメハ大王が住んでいた時代もあります。
ロイヤル・ハワイアン・センターに飾られている昔のヘルモアの想像図
そもそもヘルモアという地名にも、ユニークな伝説が残っています。16世紀、カクヒヘヴァという大酋長がこの地で昼寝をしていると、カイムキ近くのパロロ渓谷のカアウ・クレーターに住む怪鳥、カアウヘルモアがその足元に降り立ちました。怪鳥はまるでカクヒヘヴァに挑むかのように地面を激しく引っかくと、そのまま飛び去っていったとか。
その怪鳥の不可解な行為を、吉兆と捉えたカクヒヘヴァ。怪鳥が引っ掻いた箇所に椰子の木を植え、やがて椰子は増えに増えて、王家の椰子園として知られるようになりました。その後、この地はヘルモア(ハワイ語で「鳥が引っ掻く」)と呼ばれるようになったそうです。
ヘルモアには一時、1万本もの椰子が生え、その跡地にロイヤル・ハワイアンホテルが開業した1927年には、まだ1300本ほどの椰子の木が残っていました。椰子の寿命は、一般に60年~100年。もちろんカクヒヘヴァの椰子園時代からは代替わりしていますが、ロイヤル・ハワイアンホテル内外には今なお、カクヒヘヴァゆかりの椰子の子孫がまっすぐ空に延びています。
現在のロイヤルハワイアンホテル
ちなみにホテルのスタッフが教えてくれたことによると、ホテルが大改装された2008年にも、椰子の木をただ切るのではなくその苗を育て、庭に移植したとのこと。さらに切った椰子の木からは、太鼓も作ったそうです。ロビーの一角にはそれらの太鼓が展示してありますので、同ホテルを訪れたら探してみてくださいね。
ロイヤル・ハワイアンと
呼ばれるそのわけは?また同ホテルに隣接するロイヤル・ハワイアン・センターも、ヘルモア跡地に広がることは前述の通りです。そんな理由から、センター中央のガーデンは「ロイヤル・グローブ」(王家の庭、園)、ビジターセンターは「ヘルモア・ハレ」と名づけられています。センターのロゴマークに椰子の木がデザインされているのも、王家の椰子園時代の伝統から。同センターにしてもロイヤル・ハワイアンホテルにしても、ロイヤル…と冠されている理由がしっかりあるというわけです。
昔のヘルモアを模したロイヤル・グローブ
ロイヤル・ハワイアン・センターのロゴマーク
ヘルモアはまた、カメハメハ一族ゆかりの地でもあります。1795年、カメハメハ大王率いるハワイ島の戦士がオアフ島に侵攻。その後、ハワイ王国を築いたカメハメハ大王はヘルモアで暮らし、しばらく島を統治していた時代がありました。
カメハメハ大王が故郷のハワイ島に戻ってからも、そのままカメハメハ王家がヘルモアを所有し、後にカメハメハ大王の孫にあたるカメハメハ5世や、大王のひ孫でカメハメハ王朝の末裔でもあるバニース・パウアヒ王女も、この地に別荘を持っていました。パウアヒ王女が1884年に亡くなったのも、ここヘルモアです。
そんな関係から、今もロイヤル・ハワイアン・センターの建つ土地は、パウアヒ王女の遺産を元に作られたカメハメハスクール財団が所有。センター中庭には、パウアヒ王女の銅像も建っています。
以上のように、島の大酋長カクヒヘヴァや、カメハメハ一族との縁がごく強いヘルモア。あのカメハメハ大王がまさにこの地を闊歩したと考えると、何だかワクワクしますね。昔とは一帯の様相もずいぶん変わりましたが、近くにはヘルモアストリートと名づけられた道路もあり、ヘルモアの伝統を現代に伝えています。
2021年7月に発売された新刊「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景―ハワイの人々が愛する100の神話」や、ハワイ神話の入門書として、40以上の神話を網羅した「やさしくひも解くハワイ神話」などの書籍も好評発売中です。
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
- この記事をあとでまた
みたい場合は、
マイページにクリップ!