「海からせり上がった教会」カワイアハオチャーチ
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第27回。今回は、オアフ島最古の教会、カワイアハオチャーチに関するお話です。
公開日:2022.04.29
リリウオカラニ女王も
通った聖なる教会Aloha! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。今回お届けするのは、オアフ島最古の教会、カワイアハオチャーチです。ハワイ王国君主の戴冠式や結婚式、葬式なども行われた由緒ある教会であり、歴史的な見所もたくさん。かつて王国最後の女王、リリウオカラニがオルガン奏者や指揮者を務めたことでも知られます。日本での知名度はそれほどでもないかもしれませんが、19世紀の史跡が多数集まるホノルル・ダウンタウンでも、私的に「必見」と考える重要な史跡がこちら! 以下、詳しく紹介していきましょう。
教会の歴史は古く、創設されたのはカメハメハ大王が死去した翌年の1820年。キリスト教宣教師が初めてボストンからハワイに到着すると、カメハメハ大王の妻の一人だったカアフマヌ王妃は、ダウンタウンの一角を宣教師の住居&教会のために払い下げました。その後、この地にカワイアハオチャーチが設立され、隣接地には宣教師館(現ハワイアン・ミッションハウス史跡史料館)が建てられたのでした。
とはいえ、現在の礼拝堂が完成したのは1842年。初期の簡素な小屋は火事などで倒壊すること4度。それを受けて、今度はカメハメハ3世の命により、現在の頑強・壮麗な教会が完成しました。当初、教会はその立派な様子から、「太平洋のウエストミンスター寺院」と呼ばれたそうです。
実は教会には、ほかにいくつものニックネームがあります。(王族がこぞって通ったことから)「アリイの教会」というのがその一つ(アリイ=ハワイ語で王族)。実際、教会の後列には一段高いロイヤルボックスが。かつてそこに、カラカウア王やリリウオカラニ女王といった高貴な人たちが座ったと思うと、鳥肌が立つ想いがします。
さらには、「海からせり上がった教会」という神秘的なニックネームもあります。これは建物全体が珊瑚で造られているため。まだコンクリートなどがなかった当時、大量に入手できる頑強な素材が、珊瑚だったからです。「石の教会」と呼ばれることもありますが、実は石ではなく珊瑚で造られているのですね。
史料をひも解けば、珊瑚はカカアコ沖(ワード地区の前の海)で切り出されたもの。多くのハワイアンがお手製の斧を持って、夜も松明の明かりを頼りに海に潜り、珊瑚を切り出したそうです。人々は重さ450kgもの珊瑚をカヌーに乗せて運び、そうして集められた1万4000個もの珊瑚で造られたのがこの教会。珊瑚のブロックの一つが教会前に設置されていますので、ぜひチェックしてみてください。
庭の泉や霊廟などの
セルフガイドツアーもスタート話は前後しますが、カワイアハオという教会の名は、この地にあった泉に由来しています。昔ここに王族だけが沐浴を許された泉がありました。中でもハオという王族女性が足繁く通っていたので、泉と周辺の土地は「カワイアハオ」(Ka Wai o Hao ハオの泉)と呼ばれ、教会の名称にもなりました。教会の前庭にはその泉をイメージした噴水がありますので、そちらもご覧くださいね。オリジナルの泉ではありませんが、いくつか泉周辺の岩をここに移し、伝説の岩を再現したとのことです。
この泉を含め、教会の庭には見るべきスポットが点在しています。「ハオの泉」の噴水横にある黒の鉄製ベンチは、カイウラニ王女のワイキキの邸宅から寄贈されたもの。カイウラニ王女はカラカウア王&リリウオカラニ女王の姪。23歳で早逝し、今でも薄幸の美女として敬愛されている女性です。ワイキキの邸宅跡には今、プリンセスカイウラニホテルが建っていますが、かつてその邸宅に置かれていたのが、このベンチというわけです。
また教会の門近くには、ハワイ王国6代目君主のルナリロ王と父の霊廟も。王家の霊廟といえばヌウアヌ地区に立派なロイヤル・モザリアムがありますが、ルナリロ王は「庶民の近くに眠りたい」と願ったため、自身の戴冠式も行ったカワイアハオチャーチに墓が造られたとか。ですが巷では、血縁で繋がっていながら仲が悪かったカメハメハ4世、5世と同じ墓地に埋葬されるのを嫌がったから、とも噂されています。詳細は省きますが、4世&5世とルナリロ王の確執は広く知られるところなので、後者が正しいのではないか、と私は推測しています。
以上のように、王国時代の空気が色濃く漂うカワイアハオチャーチ。カメハメハ大王像からはワイキキ方面に歩いてほんの徒歩1、2分。イオラニ宮殿にもごく近いので、ダウンタウン散策の際はぜひお出かけくださいね。今年から庭のセルフガイド&オーディオツアーがスタートしたのも、嬉しいところ。庭に設置されているQRコードを携帯電話で読み取ると、英語ではありますが説明をダウンロードすることができます(QRコードが6カ所ありますが、設置パネルが小さく見つけづらいかもしれません。宝探しの気分で探してみてくださいませ)。
礼拝堂自体は日曜の礼拝時以外は施錠されていますが、週日も、事務所スタッフの手が空いている時であれば見せてくれるとのこと。日曜の礼拝は朝8時30分から。こちらも、日程が合えば参加してみてください。
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森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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