サーファーの聖地ハレイヴァの意外な過去
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第34回。今回はオアフ島北部にある人気観光スポット「ハレイヴァ(ハレイワ)」についてのお話です。
公開日:2023.07.28
大とかげの半神モオに
護られてきた土地Aloha! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム、今回は、オアフ島ハレイヴァ(ハレイワ)がテーマです。
ハレイヴァといえば陽光あふれるサーファーの街。ヒップな店々でのショッピングも楽しい人気タウンですが、意外や意外! 濃厚な文化と歴史に彩られた街でもあります。今回はそんなハレイヴァの「過去」に焦点を当てて紹介していきましょう。
まず、ハレイヴァはビーチのイメージが強い一方で、ビーチの山側には大湿地帯と養魚池が広がっていることをご存知でしょうか?古来、ハレイヴァは水の豊かな農耕地帯だったうえ、山からの清水を利用した2つの大きな養魚池に象徴される豊潤な地域でした。そのウコア養魚池とロコエア養魚池には大とかげの半神モオが住むとされ、ハレイヴァは、モオの篤い加護により繁栄する土地として知られてきた過去があります。
モオとは、川や養魚池、滝壺、泉など淡水を守るとされる半神のこと。ハワイ各地にモオの物語が残りますが、ハレイヴァの養魚池に棲むラニワヒネは、ただのモオとは格が違います。モオ一族のなかでも高位のいわば王族級のモオで、カメハメハ5世にまつわるチャント(詠唱)や神話にも登場。ラニワヒネの下には鮫の神やウツボの神が仕え、ハレイヴァを護ってきたのだそうです。
2つの養魚池のうち、ロコエア養魚池はレストラン「ハレイヴァ・ビーチハウス」(旧ジェイムソン・バイ・ザ・シー)の背後に広がり、レストラン脇から眺めることができます。またウコア養魚池には、ロコエア養魚池から車で3分ほど。カヴァイロア・ドライブ沿いの柵越しに、その一部が見えます。2つの養魚池は水路で繋がっており、ラニワヒネは養魚池を通じて海にもお出ましになるそうです。
復興作業が進行中のロコエア養魚池
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カワイロアドライブから柵越しに眺めたウコア養魚池
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「ハレイヴァ」の名の起源だった
アナフル川河口の神学校アナフル川といえばアーチ型のレインボーブリッジがかかることで有名ですが、その河口は実に歴史豊かなスポットでもあります。200年近く昔、河口海側にあったのが、ワイアルア・プロテスタント教会(現リリウオカラニ・プロテスタント教会)。カメハメハ大王の甥の息子で一帯の首長だったラアヌイの保護の下、まずは簡単な草ぶきの礼拝堂が建てられたのが1832年でした。
その近くにハワイ王国最後の女王、リリウオカラニの別荘があったほか、アメリカ人宣教師夫妻が建てた女学生のための神学校(寄宿学校)も。ちなみに「ハレイヴァ」という言葉を最初に使ったのは、同校の女生徒たち。その校舎をハレイヴァ、つまり「イヴァの家」と呼んだのが始まりです。
イヴァ(オオグンカンドリ)といえば、翼を広げて飛行する優雅な姿で知られる美しい鳥。ハレイヴァでも、空を舞うイヴァの姿がよく見られます。いわば自分たちをイヴァに喩えたわけで、なかなかお茶目な女生徒たちだったようですね。ハレイヴァという名称は1899年、海辺にできたホテルに冠されて再び注目を浴び、ハレイヴァホテルが閉鎖された後も一帯の名前として浸透。今に至っています。
後年、ワイアルア・プロテスタント教会はハレイヴァの町中に移動(現在地=松本シェイブアイスの向かい側)。リリウオカラニ女王もしばしば礼拝に出席したことから、今ではリリウオカラニ・プロテスタント教会と名を改めています。ユニークなのは、教会の風見鶏にイヴァがあしらわれていること。魚を口にくわえて羽ばたくイヴァの姿、探してみてください。
リリウオカラニ・プロテスタント教会は松本シェイブアイスの向かい側に
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教会の塔のうえに羽ばたくイヴァ
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ポハク・ラナイの
過去にまつわる真偽最後に紹介するのは、カイアカベイ・ビーチパーク。地元の人々に人気のキャンプ&ピクニック場ですが、その一角に鎮座するのが「ポハク・ラナイ」と呼ばれる巨岩です。そう、野球選手の大谷翔平氏が訪れたことから、昨今注目を集めているあの岩ですね。
それにしても何をもってこの岩がパワースポットと称されるようになったのかは謎ですが…。後づけされたらしきこの話については後述するとして、まずは岩の過去からご紹介しましょう。
ポハク・ラナイは貝殻混じりの石灰岩。海中にあったことは明らかで、伝承の一つでは、遠くタヒチから漂ってきたものとされています。また一帯は何千年前、何万年前には海だった可能性があり、現在の2枚の岩の隙間の部分は長年、波に洗われてできたものという説もあります。
この岩をバランシング・ストーン(土台となる岩のうえにもう一つの巨岩がバランスよく乗っているため)や、ベルストーンと呼ぶ人もいます。後者は昔、沖合で魚の群れを見つけた見張り役がこの岩を木の棒で叩き、近郊の漁師に合図を送ったことから。石灰岩という性質からか? その音は近郊に響きわたり、魚の到来を漁師たちに知らせたそうです。この岩自体が、魚を探すための見張り塔だったともいわれます。
そのキノコ状、またはハンバーガーのような奇妙な形、そして貝殻や珊瑚も混じった石灰岩という岩質。確かに他では見られない奇妙な岩ですが、実はパワースポットとして崇拝されたという歴史的な記述は見つかりません。スピリチュアルな言及としては、唯一、19世紀のイギリス人宣教師の旅日誌に「ここで土地の王族らが戦争での不死身の身体を求めてカネ神に祈りを捧げた」という文章があるだけなのです。
ポハク・ラナイの内部
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それが、なぜか現代の旅行ガイドではカネ神の部分ばかりが強調されていて、私としては首を傾げるばかり。そもそもハワイには聖地はあっても、「〇〇を訪れるとご利益やパワーが得られる」というパワースポットの概念はないだけに、なおさらです。
余談になりますが、近年、旅行者がハワイのヘイアウ(神殿)を日本の神社と混同し、パワースポットと称する傾向がハワイで問題視されています。多くのヘイアウでは人身御供が捧げられた過去があり、しかも昔は特定の階級の人しか訪問できなかったり、女人禁制だったり。庶民が足を踏み入れれば死罪になったような場所も多かったので、私は極力、ヘイアウに出かけないようにしています。ヘイアウは神殿というより、霊場と訳した方がいいのではと思うくらいです。日本の神社とは、全く別ものなのですね。
…もちろん、大谷選手がポハク・ラナイを訪れて以来、運気が上向いたと感じたのは本当でしょう。ですがそれは大谷選手独自の経験であり、だからといって(地元の信条&心情に反して)根拠なくこの岩をパワースポットと呼んで訪れるのは、いかがなものでしょうか。ポハク・ラナイ=パワースポット説は日本発信。そんな気がしてなりません。
ともあれ、さまざまな意味で昨今、注目を集めているハレイヴァ。この機会にハレイヴァの過去にスポットライトが当てられたこと自体は、嬉しいことではありますね。ハレイヴァでのカルチャー散歩、ぜひ楽しんでみてください。
さて、ここで一つお知らせです! ホノルルでのカルチャーイベント「ホオラマウ」の10月開催が正式決定しました。これは「ホオラウナ・アロハ」「カフラホア」という2大フライベントによる共催イベント。今年は通常のフライベントとはやや異なり、フラダンサー以外の旅行者も楽しめる要素をたっぷり加味したハワイアンカルチャーの祭典として催されます。
私も東海岸神話ツアーを担当するほか、王族にまつわるワイキキ散策ツアーや買物ツアーなど、お楽しみがいっぱい。カルチャーに関心のある方、こぞってご参加くださいね! 詳細は以下のサイトから確認ください。ハワイでお会いしましょう!
\ 「やさしくひも解くハワイ神話」は現在3刷目 /
「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」は2刷目が出来あがりました!
(現在、アロハストリート横浜ショップでも好評発売中!)
森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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