知る人ぞ知る神話スポット、タンタラスの丘

知る人ぞ知る神話スポット、タンタラスの丘

ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第38回。今回は、いくつもの神話の舞台を一望できるタンタラスの丘をテーマにお届けします。

公開日:2024.03.15

森出じゅんのハワイ歴史&神話散歩

タンタラスの丘に残る
サツマイモの伝説とは?

Aloha! ホノルル在住の森出じゅんです。

ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム、今回はタンタラスの丘周辺の神話がテーマ。タンタラスの丘といえばホノルルの町を眼下に望む絶景の地として知られますが、もう一つ、実はいくつもの神話の舞台を一望できる、知る人ぞ知る神話スポットでもあります。神話好きの皆さんにはぜひ訪れていただきたい、神秘の丘というわけです。

タンタラスの丘自体にもユニークな伝説が残りますが、そちらを紹介する前に、まずは地名について少しだけ説明すると…。タンタラスとはギリシャの神の名で、命名したのは丘の麓にある名門校(オバマ前大統領の出身校)、プナホウスクールの生徒たち。同校の生徒はたびたび丘まで遠足に出かけていたそうで、19世紀半ば、この丘を「タンタラス」と呼んだのがその始まりでした(その理由については後述)。

 

下から見上げたタンタラスの丘。標高は約540メートル

ですが丘の本来のハワイ語名は、「プウ・ウアラカア(転がるサツマイモの丘)」。ずいぶんユニークな地名ですよね!…実はこの古称は、この丘で育っていた大きなサツマイモにまつわる伝説からの命名。以下、伝説を簡単に紹介しましょう。

昔々の大昔。ある2人の男が丘でサツマイモを育て始めました。1人は丘の斜面に、もう1人は平地に畑を拓いてサツマイモを植えつけたところ、斜面の畑に特大のサツマイモが育ちました。それは遠くからもひと目でわかる、巨大なサツマイモだったとか。

ある日のこと。巨大なサツマイモの蔦をネズミがかじり、サツマイモは丘の斜面をコロコロと転がり落ちて、平地にあった畑に着地しました。サツマイモはそのまま畑で成長を続け、さらに巨大化。そこからたくさんの芽が出てサツマイモはどんどん増え、いつしか丘はハワイ随一のサツマイモの名産地になったそうです。以来、この丘はプウ・ウアラカア(転がるサツマイモの丘)と呼ばれるようになったのでした。

実際、この丘の斜面にはかつてサツマイモ畑が広がり、オアフ島を征服してハワイ島から移り住んだカメハメハ大王も広大なサツマイモ畑を持っていました。大きなサツマイモがふんだんに採れ、収穫されたサツマイモがころころと丘を転がり落ちる様子から、丘の名がつけられたという人もいます。

 

実は神話スポットだった
タンタラスの丘

告白しますと、私がウアラカアの丘=タンタラスの丘であると知ったのは、つい昨年のこと。ウアラカアの丘の伝説自体は知っていましたが、その丘の位置を特定できていなかったのです。ところがある日、タンタラスの丘の頂上の公園を目指して車を進める道すがら、道標に「ウアラカアストリート」の名があるのを見てドッキリ!

 

「もしかするとウアラカアの丘というのはこのあたり?」。そんなことを考えながら丘の頂上に到着して、またドッキリ。そもそも公園の名が、プウ・ウアラカア州立公園だったからです。かなり前に公園を訪れたことはありましたが、恥ずかしながら公園の名を失念していた私。ウアラカアの丘=タンタラスの丘である事実を改めて実感し、かなり驚いたことを告白しておきましょう。

 

しかも公園から東側に広がるマノア渓谷を望んで、またも驚きに見舞われました! 目の前にもう1つ、有名な神話にまつわる尾根が横たわっているではありませんか。マノア渓谷の東の縁を成すヴァアヒラ尾根です。ヴァアヒラ尾根の別名は「マノアのスリーピングジャイアント」。これはマノアを舞台にした有名な神話「カハラオプナ」にまつわる命名で、スリーピングジャイアントとは、残酷な酋長の成れの果て。そんな逸話が神話のなかで語られています。

話を要約しますと、若き酋長のカウヒはマノア渓谷の虹のプリンセス、カハラオプナの婚約者でした。虹の化身であるカハラオプナの神々しいまでの美しさを畏怖して、勝手にカハラオプナの浮気を疑ったカウヒ。なんと罪のないカハラオプナを殺害してしまいます。その悪事が島の首長に知れ、カウヒは処刑される羽目に。死してなお神々の怒りは収まらず、カウヒはマノアの丘に変えられ、頭上に出現する美しいカハラオプナ(虹)を見つめては涙を流し続けているのだそうです。

 

胸に手を置いて上向きに横たわるマノアのスリーピングジャイアント(白いモヤのかかった部分が顔)

…こうして伝説のまつわる丘の頂上から、もう1つのメジャーな神話の舞台を目前に眺めるというのも、かなりエキサイティングな経験。しかもスリーピングジャイアントの丘の右手後方には、火山の女神ペレの神話が残るダイヤモンドヘッドが控えています。神話の里ハワイといえども、いくつものダイナミックな神話の舞台に囲まれる経験はそうあるものではありません。神の気配を身近に感じた、久々のタンタラス訪問となりました。

 

 

新旧の地名に漂う
神秘世界の気配

さて記事の前半で、麓の学校の生徒が丘をタンタラスと呼び始めたことを書きました。その理由についてここで説明しておきましょう。命名の背景には諸説がありますが、有力なのは「生徒一行がハイキングに出かけた際、丘の頂上にもう少しで到着しそうなのに日が暮れて到着できなかったから」という説。

というのも神タンタラスは、父の大神ゼウスの力を試そうとしたことから罰を受けた哀れな神として知られます。すぐ近くにある木の果実をもぎとろうとすると実が遠ざかり、同様に湖の水も退いてしまうという飢えと喉の渇きの責苦を、永遠に受け続けているのだそうです。そのためプナホウスクールの生徒たちは、すぐ頂上に到着できそうでできないこの丘をタンタラスの丘と呼んだのですね。なかなか知的かつ粋なネーミングではないでしょうか。

 

頂上の公園の先端にある展望台。晴れた日には真珠湾まで見渡せる

…一方、これは私の勝手な心象ですが、神話に彩られたこの丘にギリシャの神の名をつけるというのも、なにやら不思議な符号のような。案外、19世紀の若者たちは、この丘に神の気配を感じとっていたのかもしれません。考えすぎかもしれませんが…。

以上のような理由から、今では神秘の丘として私の目に映るタンタラスの丘。日頃から私が感じているのは、その土地の逸話を知って眺めてみると、同じ景色が全く違って見えるということです。皆さんも次回タンタラスを訪れたら、これらの神話を思い起こしつつ絶景を楽しんでみてくださいね。

 


 

地球の歩き方社から新刊発売!
「ハワイカルチャーさんぽ」

さて、今日は最後に嬉しいニュースを一つシェアさせてください。3月22日、3年ぶりの新刊が地球の歩き方社から刊行されます! 「史跡と神話の舞台をホロホロ! ハワイカルチャーさんぽ」との題で、同社の旅の読物シリーズの第3弾となります。

この本は私が暮らすオアフ島を6つのエリアに分け、何気ないスポットに隠れた歴史や神々の逸話を紹介するという内容。読んでアッと驚く物語を、プロのカメラマンによるカラー写真とともにお見せしています。スポット紹介の合間には、「故郷以外では嫌われていた? カメハメハ大王」「オアフ島を貫く地下道がある?」「公開処刑された王族」「神話に彩られたプナホウの泉」といったコラムの数々も。

現在、オンライン書店そのほかで絶賛予約受付け中ですので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

2020年&2021年に発行された以下の2冊についても、同様にお願いいたします!

\ 「やさしくひも解くハワイ神話」は現在4刷め /
「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(現在、アロハストリート横浜ショップでも好評発売中!)は2刷目が出来あがりました!

森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール

オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。

☆ブログ「森出じゅんのハワイ生活」>>

☆ハワイ州観光局アロハプログラム>>

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